じわじわと、それは心から何もかも、蝕んでいく。



ヨク
がんがんと、頭痛がしていた。 雨の日はいつもそうだ、安住は思う。 思い出すから、それだけと言われたらそうだったろうけれど、 もう、こんなに時間が経っているのに。 ―――リョウは、私のものなんだから! そう言った彼女のことを忘れられないなんて、本当にひどい話だ。 ―――ルミにはあげないもん!! 喉が張り裂けそうな勢いで、それでも叫ぶことをやめられずに、いたくせに。 あれが、最初だった。そう思う。 あれが、レイの発した最初の弾丸で、未だ安住を捉えて離さない。 雨の日だった。 弾丸が発されるのは、いつだって雨の日だった。 雨が降ると彼は家に来たから。 それがどんな理由だったのか、もう覚えていない。 だって、その時安住はまだ幼かったのだから。 記憶は風化する。 とんでもない速度で。 ロリポップを打ち込まれた人間ならば尚更。 ―――安住さん。 知らない、ひとのように。 ―――安住さん。 ルミ、と。 おねえちゃん、と呼んでくれる幼い声は、もうない。 勘違いだった、そう言ってしまえればきっとよかったのに。 撃たれた安住は何も言うことが出来なかった。 彼女の自業自得、そう言ってしまえば終わりだけれど。 「物語、だからなあ」 胸の辺りを無でさすりながら、安住は呟く。 最初の一発が入ったところが、思い出したように痛みを訴えていた。
20141213