運命というものを信じるのならば、きっとあれこそがオレの運命だったのだろうと思う。

運命の落とし子 

 そもそもオレの出自から話をすると、両親ともに諸国を放浪する旅人であり、旅の途中で生まれたオレは邪魔になるからとこの国に置いて行かれた。それをあまりに可哀想だと思った老人がオレを拾って育ててくれたがそんな老人も老いには勝てずに死んでしまった。彼が死ぬ間際に残したのは裏の街道へ行け、という言葉であり、オレには彼以外にこの国で頼れるような人がいなかったので、彼の言葉に従った。
 とは言え老人の言った裏の街道とは当時住んでいた場所からは遠く、元々あまり食事を摂れていなかったオレは街道にやっとのことでついたは良いが行き倒れてしまった。死にかけの子供なんぞ珍しくもないこの国ではオレに構う者はおらず、ああこのまま死ぬのだろうか―――とまで思った時に、オレを覗き込んだのが彼女であったという話だ。
 此処で少し話を戻してオレが老人と暮らしていた頃のことだ。物心がついた頃には周りの人間は当たり前のように占いをやっていた。オレはどうしてか生まれた頃からの記憶が結構ちゃんと残っていて、両親がオレを置いていったことも、老人が可哀想にと拾ってくれたことも覚えていた。当時はどうしてなのか分からなかったが、大きくなるにつれてその内容を理解した。だから両親が占いなんてものをしていなかったのを覚えているし、老人が日課のように占いをするのを不思議に思っていた。が、どうやら此処はそういう国らしかった。お前には出来ないかもしれないなあ、という老人は一度もオレに嘘を吐いたことはなかった。両親のことも、誤魔化しはしたが嘘は一つも言わなかった。それは老人が他に身寄りもなく、自分が死んだらオレが路頭に迷うことを分かっていたのだろう。だから自分の出来る限りすべてを教えた。でも占いだけは教えなかった。お前には必要ないから、と老人は言っていたけれども恐らくオレはこの国の人間ではないので才能がなかったのかもしれない。今となってはどうでも良いけれど。
 兎に角そういう背景があったので死の間際に老人が力を振り絞って石をかき集め始めたのを疑問に思うことはしなかった。その時はこのまま死ぬのかどうかを占うのかと思っていたが、どうやらオレのことを占ってくれていたらしい。それで、裏の街道に行け、という言葉だった。行ってどうなると思ったしいつ行けば良いのか分からなかったし、もっと具体的にとも思ったが占いなんてそういうものかもしれないと思ったら仕方ないな、と思えた。占いは予知ではないのだ。だから老人を墓に納めたあと、荷物を持って裏の街道へと行ったのだ。それで結局行き倒れはしたが、結果的に彼女に出会った。そして死ぬこともなかった。オレはそのまま彼女に拾われてそれなりに良い地位を確立し、彼女のために尽くした。
 彼女はその長いとは言えない生涯でオレを占ってくれたのはただ一度だけだった。悪戯を思いついたような少女の顔で、彼女はオレを占って、悲しそうに嬉しそうに
、その結果を教えてくれた。

 それを思い出さないことはない。
 目の前には彼女の宝物がいる。たった一人の彼女の娘。この国の第一王女、王位継承権第一位。オレが今すぐ此処から逃げれば、きっと彼女の占いは外れる。それがもしかしたら彼女の願いだったのかもしれないが、最早死んでしまった彼女に確かめる術はない。
 目の前の彼女の宝物を、残して行けないというのがオレの中のすべてだった。彼女に忠誠を誓った時に、もう未来は確定していたのだ。彼女の宝物はひどく生きづらそうだった、けれども宝物も周りも、その打開策を知っている。恐らく、その鍵を握る彼も、そのことが分かっている。―――もしも、もしもの話だ。オレは考える。彼が自らの運命と性質をよくよく考えこの国の未来を真剣に考えるのであれば。オレは役目を果たすだろう。
『貴方は私の宝物のために死ぬの』
 微笑んでみせた、運命に縛られたかつての少女の呪いを本物にするために。



image song「サンドリヨンの番犬」天野月

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20170903