僕はそれでも彼女を家族だと思っていた。

まるで結晶のように壊れやすい僕らの夢のかたち 

 彼女にその自覚がないだろうことは何となく、察していた。だからこそ僕はこの許された時間を使って、彼女にこうして会いに来ていたのだ。自らの婚約者をほったらかしにしてまで、彼女との時間を取ろうと考えた。何故ならそれは期限付きのものだと思っていたから。
 生まれた時から僕がずっと知っていた双子の妹は僕のことを一切知らず、それでも拒むことをせずに受け入れてくれる。
―――一緒に帰ろう。
それを言うには遅すぎたし、そもそも僕はそれを望んでいたのではなかった。本当にそれを望んでいたのであれば、もっと最初に言っていたはずだ。でも僕が最初にしたのは彼女に対して自分の地位と能力(チカラ)を示すことで、家族の情を示すことではなかった。
 何処かで分かっていたのだろう。
 僕は愛情を受けてこなかった訳ではない。だから彼女よりずっと、そのことが分かっていた。世間とはかけ離れた家だとは自覚しているが、彼女はそれ以上だった。それがひと目で分かったからこそ、僕は言わなかったのだろうと思うし、言わなかった自分のことを褒めてやりたいくらいだった。
「契約が切れて…僕が此処へ来なくなったら、一族に戻ったら、もう君に会えなくなってしまうのかな」
それは疑問の形をとることすら出来なかった。彼女はそうするだろう、そんな確信があったから。
 しかし、それは砕かれる。
「エ、時間のあル時に会いにいくヨ」
予想もしない方向から。
 目を瞬(しばたた)かせる。能力(チカラ)の通じない血族である彼女だけの前では、僕はその包帯を取ることが出来る。同じ、瞳。ああ、僕と彼女は血が繋がっている、と実感する。
「何故…」
「何故っテ」
父と、同じ。彼女は知らないだろうけれど。
「僕らは家族、なんだロウ?」
 まさか、彼女からそんな言葉が出てくるなんて。
「エ、何。嫌ナラ行かないケド…」
「いや、そんなことはない」
思わず俯いて、でも僕は強く言う。
「是非、来てくれ」
 いつか、彼女のことを胸を張って家族だと、言える日が来るように。

***

ノスタルジア 

 それを知ったのはずっと後のことで、これから涼水が過ごすであろう時間を考えたらずっとというのは些か誇張ではあったが、それでもひどく遅かったと感じた。もっと入ってくるだろうと思っていた噂もなんにもなくて、ただ縺れる脚に鞭打って走るしか出来なかった。
 やっと着いたその場所には言われていた通り本当に何にもなくて、息を吐くことすらままならなかった。
 まっさらになってしまったその地に膝をつく。
 「…ッ、ぅ」
奥底から沸き上がる感情が喉を灼いていく。この慟哭に名前をつけるなら。
「…ただ、いま」
悲しみでも、後悔でもない。
 郷愁。ただ一つ、確かに故郷である其処へ。それを与えてくれた彼女へ。
 「ただいま、いずみ」
 そして、さよなら。



(ただいま)



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20131012

***

おかえりなさい、少女よ、今はただ休みなさい。 

 「答えなくても良いんですけど」
午後の陽射しは暖かく、そんな中縁側で飲むお茶は格別だった。
「何、涼水。改まって」
「草希さんには会いに行きたい人っていますか」
あまりに唐突なその質問に思わずそちらを見る。真剣なその横顔に、きっといずみには聞けなかったのだと思った。息を吐く。
「…いると言ったら、いるの、かなぁ」
瞼の裏に浮かんで来るその顔は、きっと今はもっと年齢を刻んでいるはずだ。
「でもさ、全然会いに行けないの。探そうと思えば探せるはずなのに、探すことすら出来ないでいる」
今何してるんだろう、私のこと、覚えてる? たくさん、言えなかったこととか、謝りたいこととか、聞きたいことだってあるのに。
 「…そういう自分に焦ることって、ありますか」
「あるよ」
けど、と笑う。
「焦ったところで何も出来ないでいるのが変わるかって言ったら、そうでもないんだよね。そんなら私は、ゆっくり自分の中で折り合いがつくのを待っていたいなぁ」
なーんてね、そう言ってお茶を啜る。
 いつの日か、会えたら。
 その時は、私はちゃんと笑えるだろうか。



20140608

***




20180202