帳消しプラマイ 

 ネットを徘徊しているとよく天才、と冠した彼女の名前を目にする。記事で、ブログで、掲示板で…様々なところで。匿名でも、彼女の味方がいるのだと思うと嬉しくなる、なんて。意外にもちゃんと友達をやっていたんだなあ、と思う瞬間だ。



ネット、天才、掲示板

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貴方はひどい人 

 死神というのは瞬足の存在だ、それに会ったことのあるいずみはそれを良く分かっていると思う。けれども、この場所を譲る訳にはいかない。自分の出来る精一杯でそれを威嚇する。
 この、場所は。
 恋にやぶれた前任者の残した、唯一の砦なのだから。



威嚇、死、瞬足の

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時が止まった貴方に寄り添い 

 これが本当に恋なのか、正直なところどっちでも良かった。彼の代わりはいなくて、きっと彼の中にも自分の代わりはいなくて。
 それだけがはっきりしていれば良かったのだ。
「死んでもよろしくね、なんて。巻き込んでごめんね」
懐かしい母国語で話し掛ける。きっと、聞こえてるだろうから。
「でも君とならきっと、何処だって天国だって、そう思ったんだ」
当たり前だろ、と聞こえた気がした。
 それは自分の気のせいとも分かっていたけれど、彼ならそう言うだろうことも、よく分かっていた。



@sousaku_odai_

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うそばかり。 

 世界は此処だけだよ、と彼は言っていたな、と思い出す。あの頃はそれが正しいと思っていたのだけれども、今はそうではないと知っている。知っているけれども、彼が嘘だけを言っていたとも思えないのだ。
「あんなに嘘吐きだったのにね」
もしかしたら彼にとっては真実かもしれないと、そんなことを思ってしまったから。
 あれは嘘吐きの顔ではなかった。
 それを知るだけの技量が、自分にあることが悲しかった。



スカートが 風でひらりと 翻る 見えた世界は 「メンテナンス中」 / 脱力

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真実は生き物 

 何を言っても嘘になりそうだ、とこの身体のメンテナンスをする―――友人、を見つめる。ごめん、とはもう謝らない。彼女にだって利益があってのことだから、そして二人は友人であるのだから。
「…涼水のこと、」
「うん」
「此処は、焼いておいテ」
「本は」
「処分してあるカラ大丈夫」
「そう」
短い言葉だけで良かった。
 さよならというのはあまりに似合わないから。



揺蕩う言葉 @tayutau_kotoba

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やきつく死体 

 血塗れだった、と当たり前のことを思う。多分たくさん刺したのだ、とおぼろげながら感触を思い出す。
 それが正しいことだったのか、今でもよく分からない。殺したくて殺した訳じゃなかったように思う。初めて手に入れた怒りをコントロール出来ずに、暴走してしまった。つまるところ未熟だったのだ、何もかも。彼も、自分も。
 思い出す死体が喋ることはない、睨んでくることはない、悲しむことはない、責めることはない、どうして、など。問うことも、ない。
 彼は強い人だった。
 自分が知っているのは、それだけだった。



きみは喉仏にずっと噛み付いていたそんな夕映えの死にざま / 黒木うめ

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これが愛と云うのでせう。 

 彼がいるのだと知ってからも生活は変わらなかった。いつだってこの時彼がいたら、と考えることはしていたのだから。今まで封じ込めていた言葉を時折解放するようになったくらい、で。
 姿が見えなくとも。
「ああ、君も見ているんだ、これを」
それを幸せと言えるのだから、それで。



満月の光で街を歩いてく きみすらみえないまぶしい昼間に / aoi

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全部仕組まれた、甘い罠だった 

 血を吐くようなものだった。だからそれが当たり前のものだと思っていた。
「違うよ」
彼は優しい声で言う。
「違うんだよ、アンナ」
誰だろうそれは、と思う。そんな名前ではない、だって僕の名前は―――
『いずみ』
 そうして夢は終わる。いつだって、名前を付けてくれた人の顔を振り返れずに。



(それでも良かった)



image song「LOVE 2 HATE」椿屋四重奏

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映画好きのあの人と行った全部の映画の半券と、あの人の感想を記録していたスケッチブックに、お別れを告げる日が来たわ 

 結局彼女のものはすべて残してしまって、自分が片付ける羽目になったな、と思う。片付けを手伝ってくれた友人はいくらか引き取ると申し出てくれて、勿論それは価値があるものだからなのだけれども、ひどく安心した。
「いずみはさ、結局涼水のことはどう思っていたの?」
最後だからか、そんなことを問うてくる彼女が珍しくて、笑ったのを覚えている。
「どうモこうモ、文字通リ生きていル世界が違うんダナって、そう思ってたヨ」
 そう、結局最後まで彼女が望む、交わる世界など実現出来はしなかったのだ。



ゆるふわ @huwaodai

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君がくれたもの 

 自分が普通≠ゥらかけ離れていることに気付くには少し時間が掛かった。出会うもの出会うもの、似た者同士の法則とでも言うのか、それともそれくらいでなければ生き残れはしないのか。軒並み普通≠ナはないものたちで、だから記憶を失ってまっさらになった彼女が此処に居候することが決まるまで、そうである自認はなかった。
 なかった、けれど。
 その代わりにああ、あれは普通≠ニいうことだったのだ、と分かったこともある。自分の性質、居た場所の性質、それを鑑みればそれがどれほど尊いことだったのか、今更分かったことを、きっとあの人は笑わないから。
「×××」
名前を呼ぶ。
「君って本当に、へんなひと」



チーズと発音すれば 笑い顔をつくる事ができます でも ほほえみはつくれません ほほえみは気持の奥から自然に湧いてくる泉ですから その地下水の水脈を持っているかどうか なのですから
川崎洋「地下水」



20170903