君を殺してしまうのなら私なんていらない 

 初めて会った死神という存在はあまりに美しかった。少なくともこの本名を知らせてしまえと思うほど、この胸を打っていった。
 こんな、感情が。まだこの身体に残っていたなんて。
 好きと伝えるのは簡単だったろう、彼に抱いてもらうことだって可能だっただろう、でもそれでは駄目なのだ、もし万が一、彼がそこにある愛なんてものに気付いたら、彼を―――美しい彼を、殺すことになってしまう。
 それは。
 だから決意する。彼を殺す存在なんて殺してしまおうと、それと同時に彼の中に、自分という存在を刻みつけよう、と。
 ああ、これは、確かに恋だった。



空耳
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百万回でも殺してやるさ 

 私は結局、そう言って欲しかったのだ。魂という繋がりしか出来ない弱い人間の私を、貴方のその長い生の中で、絶対のものにして欲しかった。何度でも、何度でも。関わってくれると約束して欲しかった。
 私の願いは。
 叶っただろうか?



(それは私の夢)
(ぜんぶ嘘)



指切り
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子供扱いしないで 

 絶対的に私は彼よりも下だった。私が人間だからいけないのだろうか。困ったな、と思う。私は人間であるから私なのであって、私は私以外になるのはまず私をやめなくてはならない。
 そこまで思って、ああ、と思い出した。同業者の店にいる、予言者に貰った四行詩。あれは、何を示していただろうか。
 思わず、笑みが浮かぶ。
 誰かを犠牲にして、そんなことは何度もやってきた。ならば今回だって、別にいいだろう。そう思って、私は待つことにした。
 あの、美しい横顔が。私の方を見もしない横顔が。綺麗に歪められる様を、きっと見られるのだと確信して。



@Sousaku_Odai

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穴だらけの想いを隠している 

 これが恋だなんて、そんな少女めいたことを思うような年ではなかったし、そんなことを思うような生き方はしてこなかった。けれどもこれを手放してはいけない、と思った。彼の中を、私でいっぱいにしなくては! 私は胸のきらめきを感じていた。今までで一番、生きていると感じていた。
 貴方、死神、なのにね。
 私が笑ったのを分かったのか、彼は怪訝そうにこちらを見遣る。
「何を笑っている」
「今が幸福すぎて」
変な奴だな、と言われた。私もそう思った。



神威
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青春なんて死にました(殺しました) 

 少女のように生きたいと思っていた。それは憎むべき疎むべき蔑むべき妹がそんな生物だったからなのかもしれない。私は妹を羨ましいとは思っていなかったし理解も出来なかったけれど、だからと言ってすべてを賭して拒絶するほどの情熱も持ち合わせていなかったし暇があれば彼女の人生を知ってみたいと思ったのも確かだ。だから私の願望の根底には妹がいるし、いたし、それが姉として生まれた者の宿命なのかもしれない、とさえ思っていた。それほどまでに妹は私に影響を与えていたのに、彼女は何も知ることなく少女のように死んだのだったけれど。
 少女のように生きたいと思っていた。そしてそれは、ある意味では叶った。恋のようなものの中で私は燃えるように生命を終えて、すべてが死ぬのを受け入れたのだ。
 それを幸福と呼ばずして、何と呼ぶのだろう。



こんなにも眩しい春だ桜とか菜の花だとか終わる恋とか / こはぎ

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捻り出した音は嗚咽になった 

 泣いている、と認識する。出て行くと言った時に妹は喜ぶのだと思っていた。だからこそ彼女が今床に突っ伏して顔を覆って泣いている理由が分からなかった。私のことなんて嫌いなのだと思っていた、そうしてそれは当たり前だと思っていたし、それと同時に私はそんなことをする妹を馬鹿だと下に見ていた。
 ああもしかして、泣くほど嬉しいのだろうか。
 なるほど、と私は頷いて背を向ける。妹が喜んでいるのならばそれは予想通りであって予想以上であって、何の問題もないのだ。
 妹が手を伸ばしたような気がした。
 私はそれを無視した。



宵闇の祷り
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わたしを食べて 

 愛にはいろんな形があるのだとその昔少女が言っていたような気がした。その昔と言っても本当はそんなに前のことではないはずなのに、そもそも二人の間に会話なんてものがあったのがひどく遠くに感じるものだからそんなことを言ってしまう。
「ふふ」
一人になると笑みが漏れてしまうのは初めて馬鹿馬鹿しいと思っていたものに手が届いたような気になったかもしれなかった。真実どうであっても良かった、そう思えたことが何よりの収穫だった。
「貴方のお腹の中はどんな気分なのかしらね」



ヴァルキュリアの囁き @blwisper

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あたしが古くなるじゃない 

 いつだって鮮烈が良かった。
 そんなことを思ったのは初めてで、そもそも今までは基本的に鮮烈な存在として筑紫ツグモは生きてきたのだから。当たり前に人々の記憶に鮮烈に残る、或いは最期の記憶として鮮烈に焼き付く。それ以外はなかった、それだけだったのに。
―――貴方にとって、私は多くいる人間の一人でしかないのだ。
自覚した瞬間湧き上がってきたのは何だったのだろう。



image song「ギブス」椎名林檎

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「壊れたらどうなるのかと思って」(答えはほら、君の目の前に) 

 蟻を潰すのが好きだった。妹が生まれるまでは誰もどうしてと問うことをしなかったのに、あの不出来な妹が出来てから彼女はことあるごとに聞いてくるのだ。
「どうして? どうしてそんなことをするの?」
 だから私は微笑む。
 馬鹿な妹にも分かるように。



一人遊び。
http://wordgame.ame-zaiku.com/

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恋に溺れた幼稚な愛 

 殺しても殺しきればいものがいたら良いのにと願っていたのかもしれない。だからいろいろな文献を調べて、きっとあまり逢えない自分より強い人間なんてものを見つけることを諦めていたのだろう。そこで出会ってしまった人外の存在、確実に戦いを挑んだら敗けるだろうに、どうしても勝ちたいと思ってしまった。
 だからそれが運命だと思ったのだ。
 私の手に余るような子供が、私の店にやってきた時には。
「私は筑紫ビャク。此処の店長よ。貴方は?」
もしかしたら私を殺せるような存在が地上にいたことは、少し残念に思ったけれど。

 本当の名は分からなかった。
 それで良いと思った。



ストレーガの憂鬱 @strega_odai

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20170113