「紅葉、飲み過ぎだと思うよ」
「そんなことない」
きりりと目の前のグラスを見つめる紅葉は、どうみても酔っ払いのそれだった。
「…紅葉」
少し調子を強く呼んでみるが効果なし。
「お前、何で俺のこと呼び捨てなの?」
「え?
うーん…多分、弥生がそう呼んでたからだと思うけど」
舌打ちされる。
「そんなに弥生が良いのかよ」
笑ってやった。

ぐたり、と上体が倒れてくる。
まだグラスに掛けられている手を優しく外し、頭をぽんぽんと叩く。
「寝るならお店出ようよ、紅葉」
「そしたら俺の家来てくれる?」
「襲わないならね」
いつもならこれで終わるのに。
言葉を返さない紅葉に不安になって目を向ける。
視線がぶち当たったのは目を潤ませてこちらを見つめる彼であり、
どくりと何処かが疼いたのを感じた。
「…襲わない、よ」
ゆっくりと吐き出される。
「お前のこと、お前が思ってるより大事にしたいと思ってるよ」
きゅ、と握られた指先が、やたら熱いのを感じていた。



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20120911