「見て下さい!新作でーすっ!!」
梓が嬉しそうに言った時から、嫌な予感はしていた。



インコンビニエント ルーティン
理科室で少女が顔をしかめる。 「新作…って、何さ?」 少女の名は中藤カラグ。 実はとある大手財閥の正真正銘跡取りなのだが、いろんな事情があってここに居る。 紛うことなきお嬢だ。 「えーっとですね、惚れ薬です」 目の前の少年、いや少女、でも見た目は―――ややこしいので「少年」、 カラグのボディーガードの鬼貫梓は笑って言った。 「ほ、惚れ薬ィ!?」 カラグの信じられない!という顔。 「まァ、見てれば分かりますけどねー」 そう言って、梓は髪の毛を取り出す。 「髪の毛をこうやって、液体に浸します。 そのあとこのハート型の専用紙に、髪から液体が取った情報を吸わせます。 出すと直ぐに乾くんですよ」 梓がハート型の紙を出す。 確かに、乾いていた。 「これを、こうやって外に撒けば…」 窓の外に梓が手を出す。 その瞬間。  ヒュ―――ッ 風が、吹いた。 「「………」」 沈黙が流れる。 「本当に撒いちゃった」 「撒いちゃった…じゃねぇ!!」 梓の首を掴んでガクガクと揺する。 「誰のだよ、誰の髪だったんだ! その髪の持ち主に惚れる薬だろう!!」 「カラグ、大正解です。 でも大丈夫、僕のじゃありませんから」 首を締められても平気な顔をしている所は、流石ボディーガードと言った所か。 「貴様の髪は紅だろ!遠くからでも分かるわァ!!」  がくがくがく 「あの髪は…染からもらったもので…」  ぴたり カラグの動きが止まった。 「あの髪…緑掛かってたような…」 「え?あ、そういえば」 梓がああ、という顔で言う。 「まさか…っ」  ガラッ ドアが急に開いて、染が入ってきた。 「染!!あの髪誰の!?」 カラグは最早半泣きで染の胸ぐらを掴んだ。 ニヒ、と笑う染。 「まさか…っ」 「嫌な予感ほど、当たるものだよ?」 「嘘…」 カラグはへたり込む。 「あれ、もしかして、カラグのでした?」 「うん!そうだよ?」 梓の問いに笑顔で答える染。 ああ、その笑顔が憎々しい。 「………」 梓はちょっと考え込んでから、 「カラグ、逃げた方が良いと思います」 「え?」 「もうすぐ、薬が効き始める頃です…。 あれ、見境ないくらいに良く効くんで…」  ドドドドド… 足音がする。 大量に。 「隠れた方が良いです。 ちなみに効力は一週間。 いざとなったら助けますので」 梓は染を抱き上げると、ひょい、と窓から出て行った。 「ちょ、な…っ」 確実に大きくなる足音に恐怖を感じ、カラグはそこを後にした。 …まァ、こんなのも日常かな…。 ふっと笑って、カラグはそう思った。
20110216
おまけ 「染、何でカラグの髪にしたんですか?」 「え」 カラグが梓に良くくっついてるから―――なんて言えなくて。 「なんか…うん。いろいろあって」 「ふぅん…」 梓は小さく呟くと、 「喧嘩はしないで下さいね?」 笑った。 梓の笑顔も、腕も、私の専用。 その頃、カラグは。 「くそォ!染め、覚えてろ!!」 必死で逃走中。