百段あります
僕はその日も神社の階段を上がっていた。 一歩、一歩。 僕が生まれる前に死んだらしいじいちゃんから譲り受けた、黒い狐の面をして。 ここは狐の都。 玉藻御前が収める、小さな小さな都。 その中でヒトの形をとってしまった僕らのご先祖様は、 せめてもの気休めにと狐面でその顔を隠すことに決めたらしい。 可笑しいとか面倒だとか正直思わない。 生まれた時からこうなんだから、今更、という話だ。 家から一番近い稲荷神社に通うのには大した理由はない。 小さい頃からの日課、ただそれだけだ。 誰もいない寂れた社に行って、勝手に用意した箒とちりとりで軽く掃除をする。 それから賽銭箱の前へ行って二礼、ぱんぱん、と手を二回叩いて一礼。 賽銭を投げ入れることも鈴を鳴らすこともしない、 なんて不信心なやつだろうと此処のお稲荷様は思っているかもしれないけれど、 残念ながら現代人なんてそんなもんだ。 むしろ放置されかかってるところを掃除してやってるだけ感謝して欲しい。 そんなふうにしていつもの日課を終えて、くるりと振り返ったその時。 さっと、隠れた赤を見た。 「誰だ」 思わず声が出る。 警戒したような色になったのは、今まで僕意外のヒトを見たことがなかったからだった。 けれども寂れていると言えども神社。 他の参拝客がいないとも限らないのだ、今までいなかっただけで。 何にもおかしなことはない。 長いこと自分一人だったから、此処が自分の場所になったような錯覚をしていた。 「…悪い、大きな声出した」 先ほどより声を落として、そう言ってみた。 恐らく鳥居の向こうに隠れているのだろう、着物の裾が見える。 真っ赤だな、と思った。 鳥居の色を同調しそそうな、赤。 「此処あんまヒト来ねえからびっくりしたんだよ。 そりゃ神社だから来る時は来るよな。でも僕が掃除してんだから、境内は汚すなよ」 動く気配は、ない。 僕がため息を吐いて、放っといて帰ろうと思って脚を踏み出すと、 びくっとしたようにその裾が揺れた。 「別に帰るだ、け―――」 その瞬間、鳥居の後ろの影が走り出す。 急な階段を掛け降りる。 「あっ、馬鹿、此処走ったら、」 後ろを三段飛ばしで駆け下りる、目の前でずるり、草履が滑る。 「くっ」 伸ばした手が、なんとかその着物の裾を掴んだ。 ふわり、と浮き上がる感覚に胃を上段に忘れてきたような気分になった。
赤色で憤怒の表情の狐面をつけた少女。 気弱な性格で神社通いなのと依存体質なのが特徴です。 黒色の狐面の人が嫌いなようです。 診断メーカー
20140920