もう変わらない関係
「この窓の向こうに、あなたは何を見ているの?」 僕はいつか、十三さんがそう聞いてくるんだと思って、ずっと身構えていた。 この小さな箱の中に、閉じ込められるようにして、 細い管で栄養を送られて、なんとか生き延びる日々。 馬鹿だな、と思っていた。 僕も十三さんも、そんなことに意味がないの、良く分かっていたはずなのに。 僕は家族の、十三さんは僕の家族の意志を組んだ医者、 つまり上司の、言うままに此処にいるだけで。 「タイヨウくん」 僕は振り向く。 そこには今しがた考えていた人が、笑って立っていた。 「検診の時間だよ」 「そう」 「はい、体温計」 渡された体温計を脇に挟む。 ひんやりとした先端が肌に触れることは、もう日常だ。 びくりと肩が揺れることも、その冷たさが不愉快だなんて思うことも、ない。 顔を上げて十三さんを見遣る。 もう出会ってから五年、そう数えてみて結構な時間だよな、と思った。 当時九歳だった僕はもう十四歳で、新米だった十三さんも頼れる看護師さんになっていて、 最初のおっちょこちょいな感じは消えてしまっていた。 それが少し寂しい、なんて。 本当に此処での生活に慣れすぎてしまったのかもしれない。 ピピ、と音が鳴って体温計を取り出す。 今日も、少し高かった。 渡して、癖のように窓をの向こうを見遣る。 それに十三さんは何も言わなかった。 いつもと同じように柔らかな笑みで、 けれども柔らかいだけじゃない笑みで、僕を見つめてから記録帳を取り出す。 かりかり、と体温の書き込まれていく音だけが、妙に大きく聞こえていた。
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20140602