「夏初はお人好しだね」
スミノフの瓶―――彼女の容量を持った涼暮は夏初の隣に腰掛けた。
「ちなみに貶してる」
「…何か、聞いたの」
「うん」
頷いて、一口飲んで、
「でも、何も言ってないから。約束は守ってるよ」
その言葉に安堵した。
「って言うか、お前だって人のこと言えないくせに」
「あたし?」
向こうでわいわいと騒いでいる集団を見やる。
こちらが抜けて話していることに、まだ誰も気付いていないらしい。
「紅葉さんのこと」
「あれはお人好しじゃないよ」
自嘲的な笑みだな、と夏初は思う。
「どっちかってと、キープしてるって方が近いと思う」
「お前そんなこと出来ないくせに」
「夏初はあたしを過大評価しすぎ」

涼暮という人間と、夏初は高校時代を共に過ごしている。
確かに特別仲が良いとは言えなかったかもしれないが、
人間性を見誤る程人を見る目がないとは思っていない。
「お人好しは損だよ」
「何、実体験?」
「まぁ、そんなとこ」
とろんとして来た目が誰を見るのか、夏初は知っている。
この報われない友人が、本能的ともいえるくらいに目で追ってしまう人物を、知っている。
「…まだ、好きなの?」
「そっくりそのまま返すよ」
にへら、とその笑みは何処までも悪戯っ子のようで、
こういう顔をすれば感情が隠れるのを、涼暮はきっと分かってやっている。
「オレはまだ好き」
「そう」
また一口。
「あたしは、揺らいでるよ」
一口。
「真っ直ぐな人間じゃないよ」
残りを流し込む。

「…馬鹿だな」
隅っこに行って船を漕ぎ始めた涼暮を目の端で、夏初はため息を吐く。
例えそうじゃなくとも、そうでありたいと痛い程に願っているくせに。
「そういうのをお人好しって言うんだよ」
酒で誤魔化さないとやっていられないほど、あの台詞を放つのが嫌だったくせに。





20131004