おかしなおかし
このお菓子の味って何かに似てる。そんなことをふっと呟いたのは姉だった。 「…そうかな?」 純粋に首を傾げたのは弟だ。俺はと言えば何だっただろう、と黙って悩んでいる。 だって姉の言うことに今まで間違いなどなかったのだ、反対意見は弟にまかせて、 俺は姉の発言の肯定要素を探しに行くのは 別にこの家族の中で俺が一番弱いからでは―――いや一番弱いのは父だった。なんでもない。 さて、と思考を戻す。 「絶対なんか知ってる味」 「そりゃあお菓子だもの。似たようなものは幾らでもあるんじゃない?」 「でもこれ梅マンゴー味だよ? 何かに似てるとしたら既存のお菓子ではないんじゃない?」 二人の会話を聞きながら、もう一度ふむ、と考える。言われてみると何処となく懐かしい味がするのだ。 小さい頃に、食べたことがあるような。でもそれはお菓子だっただろうか。 「じゃあ姉さんが梅とマンゴーを一緒に食べたとか…」 「流石にそんな父さんみたいな真似はしないわよ」 それを聞いてあっと思い出す。 父の、腕輪。確か母が父に送ったという腕輪。その香りだ。 味というのは香りの要素で大抵が決まるらしい。 だから、食べたことも口に含んだこともない父の腕輪の味を、知っているような気がしたのだ。 「あれの香りと似てるんじゃないか? ほら、親父の腕輪」 そういう訳でそう言ってみると、弟はなるほど、と納得したような顔をしたが、 「え、あれはそんな味じゃないわよ」 姉は納得いかないようだった。いかなようだったし、食べたことのあるような発言だったが、 これ以上は危険だと判断したため、俺と弟は目配せをしてそっかぁ、とのんびりした返事をしておいた。 書き出し.me
20150603