コートに響く連続音。
「今日は良く入るな」
後ろから、伊加野が声をかけた。
「入るように打ってるし」
僕は答える。
「良し。ディフェンスつけてやろう!」
「え?」
「ホラ、やるぞ」
いつものことだが、伊加野のペースには着いていけない。
「早く」
「はいはい」
僕はバスケットボールを受けとると、伊加野と向き合う。
ボールが跳ねた。

「ちっくしょー…」
数分後、僕は床に座り込んで呟いた。
流石バスケ部部長。
ぎりちょんレギュラーの僕には敵わない。
「真神、巧くなったな」
突然、伊加野が言った。
「そうかぁ?」
「前より、自分のプレーに自信持てるようになっただろ」
「そうかぁ?」
さっきから僕の返事がテキトーなのは、ある感情のせいだった。

悔しいのだ。
入学してから一度も、伊加野に勝ったことはない。
「も一回やるぞ」
僕は立ち上がった。
「敗けるのに?」
伊加野も立ち上がる。
「敗けねぇよ」
僕と伊加野は再び向き合った。
敗け続けても、僕が伊加野の誘いにのるのは。
「ぜってー」
悔しいのと。
「勝つ」
伊加野との時間が楽しくてしょうがないからだ。

ボールは大きく弧を描いて、

外れた。
…やっぱり悔しい。





20121019