警告
にこり、と微笑まれる。 紅絹を追いかける道を阻まれて、絢太は悲しそうな顔をした。 「森野さんに何か御用があったんですか?」 ふわり、としたその笑顔に絢太は圧される。 桐生鹿子(きりゅうかのこ)。 生徒会副会長を務める同級生。 確か二年一組だったと記憶している。 紅絹の背中はもう遠くなっていた。 追い付く自信はあったけれどそれには廊下を走ることになり、 この廊下にはまだ教師もいる訳で、 正直高校生にもなって教師に廊下は走らないと注意されるのは少し、いやかなりかっこ悪い。 紅絹には見せたくない。 「用っていうか…」 「ああ、なら良かったです。七組の学級委員さんは貴方でしたよね、王子様」 ぴくり、と絢太の眦が揺れた。 「…それ、やめてくんないかな、桐生さん」 「お嫌いでしたか?申し訳ありません」 おっとりと、そう微笑む美女に食えないな、と思う。 「ですが王子様、もうその呼び名は広く浸透しています」 「桐生さん」 「それを、貴方が理解していますか?」 「桐生さん、何が言いたいの」 「分からないのですか?」 ああこれが七組の分ですね、と紙の束を押し付けられた。 それを人形のように受け取った絢太に、向けられる美しい笑み。 「ならばとても残念ですね」 その背中を追うことは、絢太には出来なかった。
20141212