それは嵐のようにやってきた。



具現化する愛
「いずみ、いるか」 目を包帯で覆った長身の青年・Hはお昼時にやってきた。 大量の荷物を携えて。 「いるケド…何、コレ」 慌てて涼水がいずみを呼んでも特に事態は変わらない。 いずみも呆けている。 「屋敷の者たちからだ。二十年分」 二十年分?涼水は首を傾げる。 いずみも同じくだ。 二人の様子にHは肝心なことを言い忘れていたと気付いたのか、ああ、と呟いた。 「今日、一月十三日は僕たちの誕生日だ」 三人でせっせと荷物を家の中に運び込んで ―――居間に置ききれなくて廊下にはみ出していた―――一息お茶。 「急で悪いが一つずつ開けて解説してくぞ。 あ、あそこのクール仕様になってるのはキッチン一同からのバースデーケーキだ。 ちらっと見たら冷蔵庫に閉まってしまえ」 「ちょっと待っテ。何がどうなってるノ?」 「今日は僕たちの誕生日で、二十年も行方知れずだった長女の行方が分かって、 屋敷の者たちがこぞってプレゼントしたがった結果がこれだ」 はぁ、と溜息を吐いてHは続ける。 「僕だって今日は主役なはずなんだぞ。 けどまぁ、屋敷の者の気持ちも分からなくもないからな」 その本はメイドのクレアから。 何が好きそうか聞かれて本と答えておいたら キーファ・ローズのサイン入り初版本を探し出したらしい。 やたら嬉しそうな顔してたぞ。 その時計は執事のジーグフリードからだ。 趣味に合わなかったら質に流して生活費の足しに、と言っていた。 あいつは本気でそうすれば良いと思ってる。 それは執事見習いのスターから。 お嬢様にはどのような姿でも着飾っていて欲しいそうだ。 髪飾りねぇ…まぁ、似合うと思うけど? そんなふうに一つ一つ箱を開けて、 プレゼントの説明をしていたHが最後に取り出したのは小さな包み。 「これは僕から」 いずみが開けると、中身は小さな写真立てだった。 「気が向いたらで良い。家族写真を撮ろう」 その言葉に涼水は思わず顔を上げる。 だってそれは、いずみに帰って来いと、言っているようなものだ。 しかし、Hの表情は涼水の予想からは大幅に外れたものだった。 「僕らの家系は君も気付いているだろうけれど、短命だ。 だから、写真くらいは残しておきたいんだよ」 その声は驚くほど静かだった、そして、春のひだまりのようにやわらかい。 初めて此処を訪れた時とは違った、妹に向けた言葉なのだと、涼水はそう感じた。 「私!…お茶のおかわり、いれてくるね」 だから、席を立って台所に向かう。 Hは変わった。 その変わったHにどう接するかはいずみの問題で、出来れば涼水が関わるべきことではないのだ。 沸かし直したお湯に茶葉を踊らせて蒸すこと二分四十秒。 いずみのカップには角砂糖を五つ、 Hのものには二つ、自分のものには一つとミルクを添えて居間に戻った。 向き合って座る双子の間を流れる空気は先ほどよりも幾ばくか和らいだように思えて、 いずみ、H、とお茶を置いてから呼びかける。 「誕生日、おめでとう!」
20140113