「双子ですね」
医師が嬉しそうに告げた。



ひかりのせかい。
悪阻も何もなく、定期健診で発覚した事実だった。 自分のお腹に自分とは違う生命が宿っている。 しかも二つも。 それは改めて考えてみると、とてつもなく不思議なことだった。 自分と、自分ではない―――あの人が混じり合った、違う存在。 「奥様、おめでとうございます」 メイドにそう言われれば自然と笑みが返っていく。 ありがとう、と自分の言葉に少なからず驚いた。 もっと何か、恨みにも似た感情を持つのだと思っていた。 その腹を撫でる。 この子たちの運命は、この腹に宿った時から決められているようなもの。 決められた道の上を、決められたように歩いて行くだけ…自分のように。 夕食はいつも通り、メイドたちと共に済ませる。 妊娠のことは館中に広まっているらしく、今日の夕食はいつもよりも少し豪華だった。 美味しい、ありがとうと零せば、揃って元気な子を産んでください、と返ってきた。 そして自分の身体がもう、ただの供物ではないことを再認識する、 いや、彼女らは元よりそう思っていたのだ。 自分がそう思えなかっただけで。 自分の生活に彼が関わってくることは殆どない。 家の仕事、外の仕事、自分より遅くに寝、自分より早く起きてゆく。 このことを話しても、きっとその表情が変わることはないのだろう。 そう思いながら少し重いようにも感じる身体を横たえた。 おやすみなさいませ、とメイドが電気を消して出ていく。 変わらないと知っていても、それでも話したい、だなんて。 私は自分の気持ちに笑ってしまった。 こんな、こんな、恋でもした生娘のように。 少しの間うつらうつらとしていたようだ。 ふと、部屋に薄明かりがあることに気付いた。 目を開けると、見知った背中。 世界が、変わったようだった。 明日も生きようと思えてしまう、自分の単純さ。 「双子ですって。男の子と女の子」 横たわったまま囁くように伝える。 「…そうか」 言葉少なく返って来るのは、いつものこと。 会話なんて成立する方が稀なのだ、今更気にしない。 こうして生きることを決められていると知った日から、そうしようと決めていた。 愛など、恋など。 この家に生まれ落ちた時点で諦めるべきことたち。 書類の束を彼は机の上に整えた。 そして卓上の電気を消す。 「もうお休みに?」 否定も肯定も返って来ることはなく、 暗くなった部屋に、彼がベッドの中に入ってくる気配だけが響く。 隣に現れた温もりが、生きていることを感じさせる。 そうして部屋は静かになった。 触れるでもなく、ただ互いを空気として見ているかのように。 その動作に含まれていた意味は、自分だけがわかっていれば良いのだ。
20121125