O Mutter, hor ein bittend Kind!
「クリスマスって、何だ」 その一言で、居間にいた全員がぴたりと動きを止めたのが分かった。 ひっきりなしに届くプレゼントの山、 いつもより豪勢な夕食、色とりどりに飾り付けられたリビング。 朝から気になっていたそのことを漸く七夜ハチが口にしたのは、 今から夕食、という所で自分を雇った美人な店主に、メリークリスマスと言われてからだった。 「そっか、ハチはクリスマス知らないんですね」 ことん、と料理を運んでくる同僚の千尋がそれもそうかと言ったように頷いた。 その物言いは少しだけ気に入らなかったが、 馬鹿にするような空気は感じられなかったので突っかからないでおく。 「えっと…クリスマスっていうのは、とある宗教の神様が生まれた日でね、」 「しゅうきょう…?かみさま…?」 「あ、そこからか…」 説明しようとしてくれた紫子に首を傾げると、困ったようにその眉が下げられた。 「どうやって説明したら良いと思う?千尋」 「僕にふらないでくださいよ、ハチ拾ってきたのマスターでしょう」 「そんな犬猫みたいに…」 「世話は自分でしてください」 台所へ戻っていく千尋を見送りながら、まだ紫子はううん、と唸っている。 変なことを聞いたらしいという自覚はあったが、それを撤回するのも何か違う気がする。 そんな空間にしびれを切らしたのは、今まで一言も喋っていなかった四月だった。 「楽しければ何でも良いのよ」 柔らかな掌がぽん、と頭を撫ぜる。 「元々あの世界の人々も意味をしっかり知ってお祝いしてた訳じゃないわ。 いうなれば口実よ。 誰かと寄り添うための、美味しいものを食べるための、少しだけ羽目を外して騒ぐための。 だからね、楽しければ良いのよ。ぐちゃぐちゃ考えることはないわ」 まだ分からないという顔をしていたのだろうか、四月が皿に続ける。 「なんか楽しい日、それで良いのよ。 それ以降は貴方の問題だわ。貴方が楽しくすれば良いだけよ」 「…うん」 強引に誤魔化されたような気がしなくもないが、 それをしているのが四月と言うだけで不思議と気にならなかった。 「ありがとう、ヨツキ」 「どういたしまして。お腹空いたからさっさと食べたかっただけよ」 千尋お手製のケーキも紫子が選んだシャンパンも、味は私が保証するわよ。 こっそりとウィンクして来た四月に少しだけ口角を釣り上げて (嬉しい時にはそうするのだと紫子から教わった、彼なりの笑顔である)、 彼女と同じように席につく。 千尋が最後の皿を持ってきて席につくと、紫子の音頭で四人分のグラスが涼やかな音を立てた。
20131224