どうか私とワルツを
君のすべてをちょうだい、 レディちゃん、 とこんな時までやめない甘々しい呼称に呆れの方が先走って、もう突っ込む気すら失せた。 「くるし、い、よ」 首元を掴まれ、 地面にその爪先が辛うじてついているだけというこの状況でも笑顔を絶やさないのはその優秀さ故か。 「愛してるって、」 「うん」 「愛してるって、言ってみろ」 何とか吐き出した言葉はひどく浅ましい。 どうして、こんなこと。 愛など、そう思った手に力が入った。 もうこれ以上この表情は歪まない。 それを知っている。 そして何よりも、それがその唇をにんまりと歪めるのを、知っているのに。
白狐の黎明堂
自らの未来など見えやしない 脳内よりももっと奥に、 それこそ魂だとかそんなものに、それが刻まれていることを私は知っている。 いくら表面でその愛を受け取ったとしても、それが本当にそうなのだとしても。 この心の臓にぎりりとつけられた、この醜い傷痕を忘れない限り。 どうしても、愛することなど出来ないのだ。
いばらの杜
どうか私とワルツを じり、と首筋を伝う汗が嫌な予感を含んでいるのが分かった。 これは怒りだ、と人間の感情に関する乏しい知識の中から引っ張り出す。 しかしその対処法まで知る訳もなくて。 感情なんてものは多くの者がとっくに捨てたか捨てざるを得なかったか、 はたまた奪われたかしているはずだった。 だからこそそういうものに対する知識なんてあってないようなもの。 向けられるものは足元で蠢く虫けらに与えられるようなもので、 名前がつく程上等でないものばかり。 だから、それ以外の上質な、人間らしい感情のことなんて、良く分からない。 けれどどうやら彼女はそうではなかったらしい。 びりびりと身を灼いていくような感覚に思う。 捨てずにいた、彼女の根本だと、根拠もなくそう感じた。 「…ハンナ」 その声が情けなく、まるで赦しを乞うように震えているのも無視するしかない。 「ハンナ、」 ああどうして。 彼女の怒気に触れて今にも殺されそうだなんて思っているのに。 彼女のその後姿が、泣いているように見えるだなんて。 そんな彼女のために、何かしてやりたいなんて。
(ああ、狂ってる) No.
(愛してるって言ってみろ・どうしても愛せない・首筋を伝う汗) 診断メーカー
20130923