ひだまりのような私の居場所。



第十三話
『じゃあ俺はそろそろ引っ込むよ』 金色の光がそういうと、じゃあ俺もだな、とアルトが涼水に向き直る。 『涼水、一人じゃしんどくなったらすぐあの薬飲めよ。 どうせイザヨイのことだから、なくなったらすぐ新しいの作ってくれるから、遠慮すんな』 「あ、うん。分かった」 アルトが心配して言ってくれているのが分かって、涼水は微笑みながら素直に返事をした。 アルトはそんな涼水から目を逸らす。 何か変なことを言っただろうか。 疑問符を浮かべる涼水の横で、金色の光はいずみの頭を撫ぜていた。 『そんな顔しないの。 こうやっていずみが生きてる間に出てこれたことだって、奇跡みたいなものなんだから』 「分かってるヨ。僕だっテそういウ知識あるんだカラ」 むすっとしてみせるいずみに光は笑って、その額に接吻けを落とす。 またね、とその唇がゼロ距離で紡ぐと同時に、彼は輝きを増して、そして消えた。 「さテ」 面倒事は終わった、とばかりにぱんぱん、と手を叩くいずみに、 ぐるりと辺りを見回して涼水は呟く。 「この廊下、どうするの…」 先ほどの戦闘と爆発で廊下はぼろぼろだった。 天井に穴は空いているし、客室の壁は崩れているし。 日頃使っている部屋が無事そうなことに喜ぶべきだろうか。 「片付けルに決まってるデショ」 何でもないことのようにいずみは言うが、 この瓦礫の山一歩手前の状態をどうやって片付けると言うのだろう。 瓦礫は粗大ごみ扱いで良いのかとか、修理はどうするんだ、 とか涼水の頭の中をぐるぐる回るものはたくさんある。 「サ、涼水もその似合わなイ眼鏡外しなヨ」 どーせ紫子のでしょ、と続けるいずみの言葉に、 涼水は自分が眼鏡を掛けていたことを思い出した。 視界に違和感が殆どないので忘れていた。 似合うとは思っていなかったが、 こうして面と向かって似合わないと言われるとなんだか悲しいものがある。 「…え」 外された眼鏡は、涼水の手の中でぱきん、と割れた。 「どどどどうしよういずみ!壊れちゃった!マスターに借りたものなのに!」 「大丈夫だヨ。 こういウものは一回シカ使えなイことが多いんダ。 あト多分借りたんじゃなくテ、もウそれ涼水のものってことになってルと思うヨ」 対価はどうしたの、といういずみの質問には、後払いって言われた、とそのままを伝える。 いずみはふうん、と少し考え込むように頷いたあと、 そっか、じゃあ店が片付いたら行こっか、と言った。 天井に開いた穴からは青く晴れ渡った空が覗いていた。 差し込む光の中、二人分の笑い声が響く。 こんな些細なことだけれどとてつもなく幸せで、 少しだけ赦された、達成感のようなものもあって。 何処にあるかも判然としない白狐の黎明堂。 そこで繰り返される日常、そのあまりにありふれた時間がまだ続いていくだろうということが、 この上なく素晴らしいことのように思えた。   →
20140109