「へェ」
対するいずみの反応は淡白なものだった。
「デ、双子のお兄サンが僕に何の用？」



第二話



「もっと何かないのか？生き別れの双子の兄だぞ？」
もっとこう、喜べよ、と手を広げるＨに、いずみは冷たい視線を返すだけだ。
「だからだヨ。
今更そんナ血縁が僕の前に現れル理由が分からナイ」
「…ああ、それもそうか」
納得したようにＨは手を下ろし、顎に手を当てて呟く。
「説明…これ僕がするのか、面倒だな…。
ああでも、それしかないか…。お前には記憶がないっていうのが厄介だな…」
半ばぼやきのようだった。
「まダ何かあるナラ早くしテくれないカ」
「まぁ、そんなに急かすなよ」
うーん、とＨはもう一度悩むように唸ると、よし、と頷いた。
「最終的な要望…いや、これは命令と言った方が良いか。
お前には跡継ぎをつくるために家へと戻ってもらう」

空気が凍るとは、このことかと思った。

「あと、つぎ？」
「ああ」
涼水が恐る恐る繰り返す。
「僕の…いや僕らの、っていうべきかな。
僕らの家はね、特別なんだ。お前」
ぐりん、と包帯で覆われた顔が涼水の方を向いた。
「神を信じているか？」
「神…ですか？」
「ああ。どうなんだ？」
「えっと…いるんじゃないかなー程度ですけど…。そういう意味でなら」
涼水の答えにＨがふふ、と笑う。
「なら話は早い。
僕らの家はその神の分家なんだ。主な役割は神を守ること。
それ故に跡継ぎをつくることは絶対だ」
「それと…いずみと何の関係が」
「せっかちだな。話は最後まで聞けよ。
神を守るためには、強い力を求める必要がある。
そのために分家は、血の近いもの同士を掛け合わせるようになった」
「…近親相姦カ。どの世界にもあルものなんだナ」
いずみの苦々しい声。
「他と一緒にしないでもらおうか。
僕らの家は、その結果強い力を得るようになった。
勿論、弊害もあったよ。
僕らは他では子を成せないようになり、
その上血が一定の濃さに達しなければ、力を得ることもままならなくなった」
ぞっとする。
それは、涼水には理解しがたい世界だった。
まるで、呪いのようではないか。

「近年分家の血の濃さも下がる一方でね…
そこで母上が双子を身ごもった時は、本家も一緒になって喜んだそうだ。
これで分家は安泰だって。
生まれ落ちた瞬間、そのうちの一人が、時空の狭間に飲み込まれるまでは、ね」
「それが、僕だト？」
ああ、とＨが頷く。
「ねぇ、自分で言うのも何だけどさ、僕わりと整った顔してる方だと思うし。
それなりにお前には優しくしてやるよ。だからおいで。
流石に力づくっていうのは気分が悪い」
「断ルと言ったラ？」
「お前はそんなに馬鹿なのか？」
ばち、と二人の間には火花が散ったように見えた。
そこで、ん？と涼水は気付く。

「…あの」
「何？」
「何か、話聞いてる限りだと、いずみと貴方がその…」
「子作り？」
「…ええ、まぁ、それ。するみたいに聞こえたんですけど」
「そうだけど」
きょとん、と返すＨを上から下まで眺める。
どう見ても女性には見えない。
「あの、こういうこと言うのなんですけど、私には貴方が男性にしか見えないんですが…」
「その通りだけど」
涼水はいずみの方を見た。
だって、だっていずみは。

いずみはと言えばそんな涼水の視線を受けて、軽くため息を吐いてみせた。
「…あれ？」
そんな二人を見たＨがわざとらしく首を傾げる。
「筑紫いずみ、十八歳。
本名はまぁ、知らないと思うし、いっか。性別は、」
顔色一つ変えないでそれを見ているいずみ。
「女、だよね」



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