暗闇から現れた影にHはへぇ、と息を漏らした。



第六話
「戻ってきたんだ」 銀色の髪をした、彼曰く彼の半身―――いずみを見て、Hは薄く笑う。 「これは僕の問題デモあるからネ。 部外者を引っ込めさせタだけだヨ」 「自分の弱みを隠して来た、の間違いじゃなくて?」 くすくす笑うHをいずみは目を細めて見やるだけだ。 「ああ、それとも、これから起こることを見せないためかな?」 その言葉には、はっと笑ってみせた。 「冗談モ休み休み言えヨ」 「全く、僕は本気なんだけどね」 一歩、Hがいずみに近付く。 そしてその頬に触れようとした手は、冷たい何かに遮られた。 「僕に触るナ」 「…それが君の武器?」 「答えル義理はないナ」 トンファーに押し返された手を引っ込めながらHは肩を竦めてみせる。 「随分嫌われたな」 「自分の行動を振り返ってみたラどうダ?」 強気な様を崩さないいずみに、Hはにやあ、と口角を釣り上げた。 「お前、どうせ子供なんてつくれないって思ってないか?」 「まァ思ってるケド」 「それは大人にならない身体の所為か?」 「さァ?そこマデ答えル義理はないだロウ?」 嘲るように首を傾げたいずみに、Hは気に入らない、というように目を細める。 「一つ良いことを教えてやるよ。 僕らはただ大人にならないようになっているだけだ。 分家と言えども神の末端。 そんな遺伝子がそうそうばらまかれて良いはずがないだろう?」 だから、大丈夫。 そう言ってHがばっと翼を広げるのと、いずみがその場所を飛び退くのは同時だった。 その手に怪しげな薬瓶が握られているのに気付いて、前転でその翼の下を掻い潜る。 「ちょこまかと…」 舌打ちをしながらHが薬瓶の蓋を開けたのと、 いずみがHに向かってトンファーを振り下ろしたのは同時だった。 めり、と何かが何かにめり込む音と共に、 「ッ」 Hが痛みに顔を顰めた。 とん、と少し離れた所に下りたいずみが何処から出したのか、小瓶の水を手の甲にぶちまける。 「は、ちょっとはかかったんだ。利き腕分の価値はあるな」 折れているのだろう、利き腕を庇って後退したHが舌なめずりした。 それをいずみは何も言わずに眺めている。 「その薬は即効性だ。三分後が楽しみだな」 まるでそれは、死刑宣告のようだった。   
20131227