イノセント・シリー
とても不安定な存在なんだと、そう分かっていた。 向こうとこちら、行き来は出来ないけれど。 元はと言えば違う世界の人間、ということになるのだから。 一人の人間が耐え切れなくて零した、二つの欠片が何を起こせるはずもなくて。 この先を知ることも出来ないその手は、互いを離すまいと握り合うしか。 「それでも貴方は続けるんでしょう?」 彼女に、と漏らした言葉はきっと届いてなどいない。 こんなぐらぐらとした、どうしようもない存在を作った彼女への、ただの嫌がらせ。 自分を、なんて大嘘を平気な顔で吐いた、彼女への。 全く以ってその通り!と作ったような声で言うのが聞こえたような気がした。 気の所為と分かっていた。 回線は切ってあるのだから。 馬鹿だと分かっているからこそ、やることもあるんだ。 そう可笑しな笑い方で言うのが、当たり前のように想像出来て。 メアリー・ス―にすらなれなかった可哀想なお人形。 紙の上だけの存在、そんなこと、思ってもいないはずなのに。 駄目なことこそ、手を伸ばしてみたくなる、覗いてみたくなる。 それが、人間の心理でしょう? ああ、ほら、貴方はそういう人だ。 普通になれないから異端になりたがる。 ひどく馬鹿馬鹿しい、憐れむべき存在だ。 目を閉じる。 眸の色だけを変えた同じ存在が、仕方ないよ、と笑っていた。
20130906