命短し
ほら、と声が上がる。 「金魚。きれいだね」 そう笑ってその人は抱えていた丸い鉢を見せてきた。 オレがああそうだな、とどうでも良さそうな返事をしても、 気を悪くした様子もなく笑ってみせた。 「沖田くんがね、掬ってきてくれたんだ」 嬉しそうにしている訳はそれか、とげんなりした。 死んだ弟が生きていたら、その話は何度か聞いた。 でもそれだけじゃないだろう、何度言おうとしたことか。 アンタは、アンタの瞳は。 あいつなんか、映してもいないじゃないか。 「でもね、」 オレの震える喉を察知したかのように、冷たい声が、物語でも紡ぐように浮き上がる。 「金魚というのは、長く生きられないからなあ」 答えない。 「美しいものはね、美しくした分だけ儚くなるんだよね」 美しいと言って、浮かんでくるのはその人が見ているふりをしている子供で。 あいつの剣に、何人が心を奪われただろう。 でも、と思う。 「それ、祭りの金魚でしょう」 「そうだよ」 「じゃあきっと、そんなに美しい種類ではないですよね」 餌ちゃんとやってれば五年は生きますよ。 そう言ったら、そうだと良いなあ、とその人は笑った。 そうであれば良いと願いつつ、そうならないと分かっていると言った顔だと思った。
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20150107