君のそれが愛だとして
まるで子供のような言い方で、小鳥が覚えたての言葉を繰り返すような調子で告げられた言葉に、 飛鳥はそうですか、と返すことしか出来なかった。 「どうしたら良いのだろう」 いつもと同じような表情で、いやきっとこれは困っている顔なのだ。 若干眉尻が下がっているように見える。一応は表情を作ろうと努力をしているらしい。 別に、そんな無理をすることはないと思うのだが、 本人が好きでやっていることなので放っておいている。 と、本人を前にして現実逃避をするのは、先ほど子供が言うような調子で言われた言葉にあった。 飛鳥も小さな子供に接したことはある。 だから、彼らが言うほんわりとした、元々の言葉よりも境界が曖昧になったものを知っている。 知っているから、これにどう返したら良いのか一瞬迷ったのだろう。 「アスカ、」 少しばかり拗ねたような声が飛鳥を現実に引き戻す。 「聞いているのか」 「聞いています」 「じゃあ何故返事をしない」 「返事を考えていたからです」 「アスカはのろまだな」 誰の所為で、とその頬を引っ叩きたくなったのをぐっとこらえる。 この目の前にいるのは子供で、 子供の言うことにいちいち怒るのも大人げない。それを飛鳥は分かっている。 だがしかし目の前にいるのは中身は子供同然でも外見は確実に大人で、 もしかしたら飛鳥よりも年上かもしれないのだ。 「おれは、お前がすきだ」 だから、こんな不確かな言葉を吐かれることに、眩暈さえするのだ。 「それ、は………」 「…お前も知ってのとおり、おれにはいろいろなものが欠落していて、 でも、お前たちがいろいろなことを教えてくれて。 それで、それでこのきもちはすき≠ネのだと思った。違うか? シズにもヨツキにも思うけれど、お前に思うのが一番強い」 「…ハチ」 「なんだ」 息を、吐く。 「僕は君じゃないので、君のすべてを分かることは出来ません。 まず前提としてそう言っておきます」 「ああ」 「君のそれは、家族の情だとか友情だとか、そういうすき≠セと思われます」 ぱちり、目が瞬(しばたた)かれた。 「かぞく…」 「ええ、家族です。 まぁ一緒に住んでいるんですし、そういう情が芽生えても何も可笑しくないですが。 ハチ、君は、さっきそう僕に伝えて、何をして欲しかったですか?」 「何って?」 「そのままです。何か言って欲しいとか、その先に何かをして欲しいとか。そういうことです」 「何か………」 ぱちり、ぱちり。瞬きの音がする。 「アスカに、」 「はい」 「アスカにすきと返して欲しかった」 「そうですか。僕も家族だとか仲間として、ハチのことはすきです」 「それから…」 「それから?」 「死なないで、欲しかった」 今度は飛鳥が瞬きをする番だった。 「いや、アスカが弱いと思ってる訳じゃない」 「そうですね。僕、君より強いですし」 「こんなにのろまなのに」 「放っておきなさい」 「でも、何だか…そう思ったんだ。うまく説明出来ない。 …アスカが、シズを守りたいと思っていることも、ちゃんと分かってる、つもりだ。でも、でも…」 つぐまれてしまった口に、分かりました、と頷く。 「折角君がそう言ってくれたのですから、頑張って長生き出来るように気を付けましょう」 「ああ。アスカは好き嫌い多いからな、ヨツキが好き嫌いは健康に悪いって言ってたぞ」 「………君に常識を説かれると、何だか微妙な気分になりますね」 ぽん、と頭を撫でてやる。それに目を細める様子はやはり、大きくとも子供のようだった。
(僕が何をするだとか、 この日常に代わり映えが出来るとかそんなことはないんだ) (だって元々僕らは愛の中にいる)
20150409