晴れ渡る空から降り注ぐ光はもう春の色をしていた。
縁側を歩いていた沖田ははた、と足を止める。
「近藤さん」
呼びかければ目先の背中が振り返った。
「おお、総司か」
にっと笑うその柔らかさは昔から変わっていない。

近藤がぽん、と自分の座る隣を叩くので、お言葉に甘えて、と傍へ駆け寄った。



まもりたいもの
縁側に二人並んで、土方の小姓の入れたお茶を飲む。 彼の入れるお茶は最初は飲めたものではなかったが、 今ではお茶の時間には是非、と言いたいくらいの腕前になっていた。 「もう都に来て一年になるのか」 ほころび始めた桜の花。 その可愛らしい薄紅を眺めながら近藤が茶を啜るのを見遣る。 「いろいろありましたね」 何もないところから始まって、住み慣れた町を離れて。 裏切り、分裂、対立。新選組として名が轟く反面、隊内での不和も見逃せないものになっていく。 それでも敵がいなくなる訳ではなく、ギスギスとした中でやってきて、とうとうその決断をして。 消えた生命に、何も思わない訳ではない。 「芹沢や平山のことか」 それに答えることはしない。 答えてしまったら最後、彼の決断が間違っていると糾弾したことになってしまいそうで。 きっとこの人はそんなこと、思いはしないだろうけれども。 「近藤さん」 その代わりに、呼び掛ける。 茶を啜りながら、なんだ、と優しい声が返って来た。 声と同じように、優しい笑み。 これが、獰猛なそれに変わる瞬間を、沖田は何度も見てきている。 そして、これからも何度だって目にすると決めている。 「…俺は、何のために剣を振るったら、良いのでしょう」 決めているはずなのに、その芯が今、ぶれてしまいそうだった。 「近藤さんは、何のために、剣を振るっているのですか」 はりつめた糸のように、自分の声が切れそうなものだと感じていた。 それでも聞かずにはおれなかった。 近藤と自分は違う、そう思っていても、道標のようなものにでも縋りたかった。 「…私のが、お前のそれと一致するかは知らんが、」 ゆっくり、紡ぎだされた言葉に頷く。 「総司、お前、まもりたいものはあるか」 「まもり、たいもの?」 暫し考えて、もう一度頷いた。 瞼の裏に浮かんだのは、沖田の中での最強。 まもられることなど似合わないとばかりの、鬼。 じゃあ、と近藤は微笑った。 「そのためで、良いんじゃないか」 私はそうしている。その言葉に目を見開く。 そんなこと、今まで考えたことはなかった。 「近藤さんは…まもりたいもののために剣を振るっているのですか」 「ああ」 「それが、何なのか聞いても?」 「それは秘密だなあ」 からからと笑う声に、ああ、と思った。 自分の唯一で、唯一のまもりたいものをまもれるのなら。 それは、どれだけ素敵なことだろう。 ゆっくりと目を閉じる。きっと口元には微かに笑みが浮かんでいた。 すうっと息を吸ってそして目を開いて、 近藤の方を向いて紡がれる言葉は、肯定の他にはないのだ。
20140709