消えていく運命なのだと思う。そもそも元から現実のものなんてなかったんだ、とそのことを忘れていたのは現実よりもこっちが楽しかったからだ。寝言に言葉を返してはいけないのだと言う。そちらが現実なのだと認識してしまうから。だから僕は誰かの呼びかけに必死で答えていた。こちらが現実だと認識するために。
 消えていく運命なのだと思う。いくら名前をつけてもいくら人生を綴っても、すべては虚構で、つまりそれは僕自身も虚構で。
 ここいらが潮時なのだ、と思う。最早舞台装置となったピンク色のカッターの刃は変えられていた。とても切れ味の良いものになっていた。これなら死ねる。そう思う、毎回そう思う。
 僕はそろそろ現実に戻るべきだ。
 死ななければいけない現実に戻るべきだ。

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好きな名前で呼べば良いよ、(愛とか) 

 貴方は私の何も知らないでしょう、と言われてそうだね、と返すことしか出来ないのを悔やむことはしない。だから君を知りたいんだ、と続けてみせることが傲慢だと思うこともしない。この世界で二人きり。そんなのは幻想だ。怖いものばかりの世界の中で、怖くないもののために頑張ることを人はきっと美しいと笑うだろう。歌にでもしろ、物語にでもしろ、そう言うだろう。
 だけれどもこれは紛れもなく現実で、世界は依然として怖いものだらけで、才能らしい才能もなくて、それでも君のために何かをしたくて、君を知りたくて。
「旅に出よう」
そう言うことは簡単だった。言葉としては簡単だった。
 君に手を伸ばすために必要な、勇気だけがずっと必要だった。

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ここは世界です 

 楽して生活したいなあ、なんて言うのは多分大体の人が持っている考えでやっとこさ高校生になったくらいの僕らにだってそんな考えはあった。もちろん、こんな田舎の隅の方にある普通のごく普通の高校に何がある訳でもないし、結構名のしれた進学校という訳でもないし、ならばスポーツが優秀なのかと言えばそういう訳でもないし。あるのを知らない人がとなり町にだっているかもしれない、一時間に電車が一本くれば良いくらいの田舎にある、小さな高校。人数はいつだって定員割れでそんな中で部活なんてものが満足に出来る訳もなくて。敷地だけは馬鹿みたいにあるにはあるのだけれど、優秀な教師がいる訳でもないので結局宝の持ち腐れだ。マラソン大会が学校の周辺で出来るというか軽く山登りになる、程度の恩恵であって生徒からしたら結局それは恩恵ではない。山のゴミ拾いなんていうクリーンアップ運動とか小洒落た名前の付いた課外学習もあることだし。
 ゴミ袋を握ってぼうっとしていると、田辺、と後ろから呼びかけられた。
「高野」
「もうちょっとゴミ袋になんか入れとけよ」
「もう落ち葉で良いと思う?」
「流石に怒られると思うぞ…」
そんな田舎なものだからゴミなんてそう落ちている訳でもなく、結局僕らは危なそうな枝を拾っている。時々出てくるのは出土した、という感じのものばかりで既に軽く宝探しのようなっていた。お宝が眠っているなんていうのは噂でも聞いたことがないからきっとこの田舎は本当にただの田舎で、この活動が将来に活かされるとか、そういうことは本当にまったくこれっぽっちも可能性としてだってないのだった。なのにやっているのは教師に怒られたくないから、それくらいで。
 そんなんやってるのに楽して生活なんて、と思う。
「あー楽してえ」
「ここに入る前に戻るしかなくない」
高野が笑う。足で落ち葉を蹴り上げる姿にそういえばこいつはサッカー部だったんだったな、と思い出した。この学校にはサッカー部はないので(ないので!)高野は何処にも行けずに一人でボールを蹴る生活をしているらしかった。僕がそれをどう捉えるか、高野は多分気にしていない。
「高野はこの学校入ったこと後悔してる訳」
「後悔はしてないけど、流石にサッカー部が廃部になるって知ってたら周りに声かけて誘うくらいはしたかも」
「はは、してないんだ」
お前サッカーしたいんじゃなかったのかよ、と思うけれども流石に口にはしない。だって僕はそんなに高野のことを知らない。
 クラスメイトで席替えで席が近くなって、一緒に昼を食べてはいるし、こうして課外学習の時間に上手いことサボるようなことをしてはいるけれど、それでも出身中学だとかサッカーをやっていたことだとか、そういうことしか知らない。誕生日も知らないし血液型も知らない。なんでサッカーをやっていたのかも、どうしてこの学校を選んだのかも知らない。
「田辺はさ、」
高野が振り向く。それで初めて、高野の背中を見ていたことに気付く。
「後悔、してんの」
「…しどおし、かな」
「なんで」
「高校だけじゃなくてさ、もっと前から勉強しとけば良かった、とか。この先の展望ってか、全然見えないんだよな、ビジョンが」
「高一なんてそんなもんじゃないの」
「かもしんないけど、見えなさすぎて不安っていうか」
「白紙のキャンバス、って?」
「お前はポジティブだな!?」
良い仕事になんかつけないだろうし、そもそも大学に行くかどうかも決まっていないし、こんな田舎じゃいろんなものに置いて行かれているだろうし、もっと。
 もっと。
 やれることがあったんじゃないかって。
「田辺はさあー」
「ん?」
「今、楽しい?」
「ゴミ拾いが?」
「まあそれでも良いけど」
「楽しくなくはない」
「なんだそれ」
高野が笑う。
 そういえば高野はサッカーをしていなくても笑う。
「まあでも楽しくなくないんじゃないから良いんじゃないの」
「なんそれ」
「だって楽しくなかったらほんとになんにもなんないじゃん」
俺はサッカーしてないけど、今楽しいし、別に良いと思うんだよね。
 今しか出来ないんだし、未来を考えないなんて。
 そう言った高野がやたら大人に見えて、楽したいなんて言った自分が恥ずかしくなった。



即興小説「日本高級取り」

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世界のハジマリオワリハジマリオワリ 

 これは既に強迫観念だろうと君は言うのだけれど僕はそんなことはないと言い切ってみせる。みせるのは僕がそれを好きでやっていると信じているからであってその他の意図はまったくないのだが、君に言わせればその信じている、という一点こそが強迫観念の尻尾なのだと言う。
「よくわからないよ」
僕は首を傾げてみせる。いつもとは逆の方向に。可愛らしくないのは知っているし別に可愛らしくしたい訳ではない。しおらしくしたい訳でもない。ただ少し、ほんの少しでも君に罪悪感が生まれてくれたらいいのにな、と思って僕は首を傾げる。それがわざとだと分かる方向にして。
 君は目ざとい。ひどく目ざとい。目障りなくらいに。だから僕は君が僕の作戦に気付くことを知っている、知っているからこそ君の罪悪感を産出するような計画にその仕種はねりこまれている。ずるい人間と言うひとはきっと大勢いるだろう、でも君はそんなことを言わない。言わないことを知っている。だって此処には僕と君の二人きりなのだ。強迫観念という壁を隔てて、僕と君の二人きり。
 世界は終わるのだ。
 それを知った時に僕はやっと喜んで見せたが君はただ泣きそうな顔をしていた。今だってそうだった。ずるい、と君は口にしない。口にしないがただ言葉を探すこともしないで僕に手を伸ばしてくる。
「どうして抱き締めるの」
「そうしたいから」
君が可哀想だから。
 君はさいごまで本音を言わなかった。
 世界はそうして終わって、また僕と君、二人きりの世界が始まる。

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カンパネルラ 

 僕以外誰も居ないはずの家で音がする。鈴の音だ。鍵か何かにつけた鈴をシャンシャンと鳴らすような音。生活音のような音。だけれどもこの家には僕以外誰もいないはずで先ほど僕は腹の中のものをすべて吐くついでにそれを確認してきたはずだった。はず、というか確実に確認してきた。なのに音はする。この辺りの家は風通しか何かの関係で隣の家の音が聞こえると言うがそれにしたってあまりに音が近くてうるさい。シャンシャンシャンシャンと、クリスマスでもあるまいし。僕はまだ痛む腹を抱えながら横になる。シャンシャン、と音は近付いて来る。
 ああ、このまま何処か、今まで乗れなかった夜行列車にでも乗って何処かへ行ってしまいたい。

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星は何処でだって見つけられる 

 この小さな町で得られたものは少なかったと思う。
 まるで星を探す旅人のように居着くことなくいつまで経っても他人で、それでも三年を過ごしたなんて笑える話かもしれない。荷物はまとめ終わっていた。最早やることもなかった。明日一番のバスで来た時と同じように、誰にもあわずにここを出て行く。そうするのが当たり前でそれを決めたのは自分でそうする以外にはなにもないはずなのに、どうしてか涙が出るのだ。
 コーヒーと、古い紙の匂い。酸素に負けて出来た、鮮やかな焼け跡。いつかなくなるそれらの悲鳴が灼きついているような、そんな、心地。
 この先それがバスの音や振動で消えていくのか、想像もつかないな、と思った。カーテンのない窓から朝陽が射し込んでいる。空に浮いた雲はとげとげしく、笑っている。木曜日だった。木曜日、あの店はいつだって定休日の札をかけていることを知るのは、この三年は長すぎた。



なるかみさんはまだ寒い引越しの前日の朝、コーヒーの飲める古書店でみた景色がまぶたの裏側にこびりついて離れない話をしてください。
#さみしいなにかをかく
https://shindanmaker.com/595943

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ほんとうのこと 

 なんてことない街だった。どこにでもある、と言ったらきっと住人に怒られるのだろうけれど。「本当に?」君が聞く。「本当にこの街の住人は怒るかな?」長い黒髪がとても似合う女の子だった。僕はさあ、とだけ答える。だってあまり興味がないのだ。本当のことを言ったら怒る人種がいることを僕は知っている。だからそう思ったのだけれども。「本当のこと、かあ」君はけたけたと笑った。心底愉しそうで少し、不愉快になる。
 「それが本当のことだって言うのは、君の傲慢だろう?」
君はくるくると回る。階段の上、死んでしまいそうな角度で、スカートをはためかせて。短い、と思った。防御力が低そうだ、とも。なんだかんだでそのスカートの下に何かしら履くのであれば、そもそも元からスカートなんて履かずにズボンで済ませておけばいいのに。とは言え、それだって短いのだからやっぱり同様に防御力は低そうなのだろうけれど。「君はこの街に来たばっかりで、少し通過するだけの人間で、だからこそこの街のことなんてそう知れるはずがないのに。それが本当のことだなんてどうして言える?」僕は五月蝿いな、と思って顔を上げる。
「お前、誰だよ」
僕は君を知らない。長い黒髪がとても似合う、スカートの短い女の子。バレリーナのようにつま先立ちで階段の一番上に立っている女の子。知らない、女の子。「知らないの?」君は笑う。とても愉しそうに笑う。
「チョキはチ・ヨ・コ・レ・イ・ト、なんだよ」
そうしてくるりと風に翻るようにして歩を進めた君は。
 君は。

***

やさしい午睡 

 小さい頃天使になりたかったんだ、という呟きが聞こえたので私はうさぎになりたかったんだ、と答えた。
「ねえ、前屈って小さい頃やらなかった?」
「やった」
「あれ、地面に手がつく人はそういう願い事、叶うんだって」
「ええ、そうなの」
バレエ習ってる人とか有利じゃん、と思いながらも立ち上がる。
「いちにのさんでやろっか」
「できるといいね」
 いち、に、さん。
 視線を下にする一瞬、視界に映ったのはさて。



https://twitter.com/karanari_shift/status/767732724488470528/photo/1?ref_src=twsrc%5Etfw

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サ ン セ ッ ト ス カ ー レ ッ ト 

 夕焼けみたいだな、と思う。深いのに、すぐに消えていってしまいそうな緋色のルビーがあしらわれたペンダント。それを祖父が唐突にくれると言ったのは三年前のことだった。
 三年前の、春のこと。
 その頃にはまだ祖父は元気だったけれども既に自分の死期を悟っていたのだと思う。でなければこのペンダントを孫に渡すなんてことはしなかったはずだ。
「それを渡したいと思える人間に出会いなさい」
それ以上の説明はなかったけれど、それだけでああ、と思った。
―――これは祖父が祖母に贈ったものなのだ。
祖母は祖父より五年も前に亡くなっていて、それからずっと祖父は持ち主のいなくなったペンダントを持っていたのだと思うと、ただ胸が熱くなった。どうして、と問うことはしない。ただ、うん、と頷いて受け取った。それは思ったよりも重かった。
 「夕焼けみたい」
言葉少なな感想に笑ってしまう。同じことを思ったのだと言えば陳腐、と返される。
―――これでよかったかな、おじいちゃん。
厳格な祖父が祖母に贈り物を選ぶ姿など想像出来なかったけれど、とりあえずは次の休みに墓参りをしようと思った。
 誰よりも夕焼けの似合う人を連れて。



「おじいちゃんが他界する三年前の春に私へのプレゼントとして贈られた夕焼けのように深い緋色をしたルビーがあしらわれているペンダント」
という例文、かなり好き コレを叩き台にしてみんなのセンスを見たい みんなの「自分ならこう書く」を知りたい
https://twitter.com/sionowchi/status/736193609632866305

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せをはやみ 

 葵蓮月(あおいはづき)がこの国に落っこちた―――彼らの言葉を借りて言うのならば召喚≠ウれたのは高校生の時であり、特に身体能力が優れていた訳でも頭が良かった訳でも超能力があった訳でもなく、平々凡々に毎日を過ごし可愛くない妹と喧嘩し、仲直りするためにコンビニにプリンを買いに行った帰り道に唐突に引っ張られた≠フで本当に本当に、何かの手違いだったのだろうと思う。実際に蓮月がその召喚陣の中に現れた時にじろじろと品定めするように見下して来た彼らの目はとても冷たく、その後も小さく失敗だった、と吐き捨てられたのだから。
 周りの人間は皆翼を持っていて、どうやら蓮月に翼がなかったことが一番の要因らしかった。この国では人間に翼が生えているのが当たり前で勿論空だってそこそこ飛べて、それが出来ないなんて出来損ない、という訳らしい。ちなみに元々の世界では翼を持った人間なんていなくてそれは天使だとか言われていたけれども所詮宗教だとか二次元の世界の話であって、現実ではなかったのだからそんな場所に突然しかも強制的に連れて来られて失敗だと罵られたこっちの身にもなってみろという話である。話の通じる連中ではなさそうだが。
 唯一助かったのは言葉が同じだったことだろうか。文化は少々違うがまあ違う国に来てしまったくらいのもので慣れるのに時間はかからなかったし、これで言葉が通じなかったら絶望して自殺でもしていただろうな、と蓮月は思う。妹にプリンは届けられなかったがそれは心残りというほどのものではないし。
 しかしながらそうしなかったのは同じような境遇の人間が他に幾人かいたからだった。失敗と判断された蓮月がお前の部屋はこちらだと襟首を引っ張られ連れて行かれた先は所謂地下で、そこには教官というものがいて、まあこの人は厳しいがなかなかに優しくそしてナイスバディなお方だったのだがその話は今は置いておくとして。元々の世界から間違って℃gえない人間が召喚されてくることはそう珍しくもないことらしく、翼もない蓮月たちはそのまま殺されても可笑しくはなかったのだけれども。
―――ゴミにはゴミなりの価値がありましょう。
言い方はあんまりなものだがこの国のお偉いさんにもそういう考えの人物は居たらしい。そもそも召喚というのがあまり推奨されていないのだとか。他の国の、というか世界の事情に深く首を突っ込むつもりはなかったので聞き流しておいた。
 殺されない。
 殺さない。
 使い道がないのなら使えるようにしてやれば良い。それが、お偉いさんの考えで。
「お前たちには技術を授けよう」
 それが出来ないならば死ね。

 この世界は絶賛戦争中らしい。理由なんて興味がなくて、というかきっと聞いてもここまで文化が違うのだから納得出来るかも怪しいのだと蓮月は思っていた。もしかしたら単純に領土の争奪戦だとかそういうものだったのかもしれないけれど、それでもあまり、考えないようにしていた。
「お前は卒業試験も兼ねた任務を与えよう」
そう教官に言われて闇に紛れて駆け出す。
 逃げよう、という気はなかった。何処へ行ってもこの世界に蓮月の居場所はなく、そしてもう、多分普通≠ネんてものに戻れる段階にはなかった。気配を殺して近付く。相手が道端の花を見て微笑むのを横目に、その首を一閃。
 あまりにも簡単だった。最初は文字通り血反吐を吐いていたのに、今では抵抗もなく出来るようになってしまった。それでも。
 それでも。
「…プリン」
何てことない青年だった。蓮月と年の頃は同じだろうか。道に転がる二人分のプリン。
―――やっぱりちゃんと仲直りしたいなあ。
音はなかったはずだけれど、あれから何年も経っていてきっと妹は喧嘩したことすら忘れているのかもしれなかったけれど、ぐちゃぐちゃと混線し始める思考を振り払ってその場を立ち去る。
 あとには青年の遺体だけが残された。何の罪もなくただ卒業試験という名の実験のために使われた、哀れな青年だけが残された。



×××は有翼人の国に召喚された高校生です。異世界での目の色は緑、髪の色は灰色。戦を終わらせるため暗殺者になれと強要されます。元の世界へ戻るには仲間を裏切らなければなりません。
https://shindanmaker.com/597513



20170416