初恋はレモンの味をしていない 

 さよならの味を知っている? と君が問うて、だから知りたくないよと答える。「知ってるかどうかで聞いたのに」君は笑うけれども、本当は雨の音に紛れて何も聞こえない。

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裁判を始めます 

 幾億もの想いが封じ込められているんだよ、と貴方は言って、それがあまりにも信じがたい事実でそんな事実に囚われている貴方が可哀想だから僕はそれを壊したくなる。この手に余る欠片を抱えた僕は、いつまで経っても子供なのだ。幾億もの年月を、子供のままにすごしている。

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沸点降下 

 誰とも共有出来ない感情を僕らは共有したつもりになって、それをさみしいとは思わずに生きている。
「それが人間ぶってるっていうんだよ」
誰よりも人間らしい君はそう笑って、ことん、と宝石を落とすのだ。

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「そんな訳ないくせに」 

 夜がどうしたって明けてしまうことを俺たちは知っていて、それでも恋をするように貴方と眠るのだとそんなことを言ったら貴方は俺のことを好きになってくれるんですか。

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月曜日の風呂場 

 生きるというのはいつだって呪いで、だからこんなに苦しくてたまらないのを人は正当化しようとする。此処に正しい天秤があるのだから、その天秤が傾いているのだから仕方がないのだ、と云う。まやかしを信じて、正しいと言い張る。私たちは許されているのだから、つまりこれは呪いではなく祝福であるのだと、つらつらと難しい言葉で飾りた立てていくのだ。貴方が私をはたく、私の手首からは血が流れている。私は呪いを甘受して、そうして愛したいだけなのに貴方はありもしない天秤に縋って泣き叫ぶのだ。その姿を醜いと言わない私はもう随分、この世界に毒されている。

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ポイント 

 「貴方は僕のことが嫌いなの?」「好きだったら許されるの?」

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林檎の解毒剤はありません。 

 愛してるとかそういうことはきっと誰にだって言えてしまって僕にだって言えてしまってでもそれってただの人間をなぞるだけの動作でしかないから誰にも理解がされないまま消費されるための言葉になるのだろうし、それってなんだかひどく不誠実にも思えるのだけれど、それでも世界は同じようなことを僕に強いてくるのできっと僕は何も言わないまま口を閉ざして硝子の棺に入るのが正しい。

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吐瀉物 

 愛してくれなくて良い、認められなくて良い、だから息をすることを否定するなよ。

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海の向こう 

 さよならを言う人間が嫌いだった、病的に明日が来ることを信じているからわたしなんて結局いなくても良いんでしょうというはなしを平気でするから、馬鹿馬鹿しくて吐き気がして、でも結局おんなじカテゴリにされるなら人間でなくなった方がマシだね。

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春ですよ 

 花を見てああ、愛だな、と思う。あまりに純粋な愛だな、と。誰も食べてくれなかった残骸が、今からすべてをぶちまけて愛してもらうための儀式。



20190807