「ここ以外に、道なんかなかった」 少女が言います。 「さて、それはどうかな」 老人はただそこに座り、ゆっくりと首を傾げました。 「間違いないの。 だって、こうやって、迷路を抜ける時みたいに、出口を探して来たもの」 少女がカベに手を当てます。 “こうやって”ここまで来たようです。 「ここまでは一本道で、壁ばっかりで、他になかったの。 だから、ここに、来たのに!!」 少女は泣き崩れました。 「さて、本当にそうかな」 老人は再度、首を傾げました。 「本当に、それは壁だったのかな」 少女はもう聴いてはいません。 ただただ、出口へ辿り着けなかった悔しさから、涙を流していました。 「お嬢さん、あなたは一度でも」 少女が揺らいでゆきます。 老人も、揺らいでゆきます。 「目に見えるものを、疑ったことがあるかい?」 そうして二人は、見えなくなりました。 そこにはただ、無機質な壁が、佇んでいるだけでした。
20071202
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