赤の帰り道
ひらり、赤い季節がやってくる。 そんなことを隣で言われたものだから、黄色じゃねえの、と呟いた。 ひらり、視界を遮るように落ちていく扇のような葉。 そのうちこの一帯も絨毯を敷いたみたいになるだろう。 「マコトは情緒がないねえ」 「お前には言われたくない」 大体なんだよ赤って、そう繰り返すと、赤、良い色じゃないか、と返される。 ぼんやりとしてふわふわ漂う、夏の終わりに行った祭りで買ったわたあめのような。 「赤は良いよ」 蓋を開けてずっと熱気にさらしていたサイダーみたいな顔で、それは言う。 「だって世界の終わりの色だ」 「夕焼けだろ」 「情緒がないなあ」 「だからお前には言われたくない」 すっとその手が空へと向かって伸ばされる。 まだ空は青い、終わりの色をしていない、だから終わらない、世界は黄色い。 「雲の波間はきもちがいいよ」 「羽根なんかないくせに?」 どうやって唇を歪めてみても、そいつは笑うしかしないのだ。 怒れば良いのに、何度そう思って意地悪を言ってみても、笑うだけでそれ以上はない。 まるでそれ以上をすべて失くして来てしまったみたいに、 へらへらと笑みをはりつける、無責任な顔。 「こころのきたないひとには見えないんだよ」 「ああああキコエナーイ」 「やることがこどもみたいだね、マコト」 陽が傾く。 それは知っている。 五時の放送、そろそろ暗くなるのではやくおうちへ帰りましょう。 余計なお世話だ、言われなくても今、家路を辿っている。 「羽根はあるよ」 笑う。 軽薄な笑み。 そんな顔をして欲しいんじゃない、怒って欲しい。 罵って欲しい。 毒づいて欲しい。 見限って欲しい。 お前なんか、と言って欲しい。 お前の所為で、と。 「ヒトシ」 声が響く。 誰もいない帰り道、放送の音に掻き消されて。 赤。 それは確かに終わりの色だ。 色が色が消えていかない、瞼の裏、焼きついて。 ぎゅっと一度強く目を瞑る。 放送の余韻が山に響いて消えていく。 それを追いかけるように目を開けた、振り返る。 その先は終わりの色をしていた。 帰らなきゃ、空の手を握る。 終わりの色が迫ってくる、その前に。
イメージSS 洵さん
20140920