少女と老人

まるで、空が泣いているかのようだった。
幾筋もの涙が、硝子の向こうの景色を歪めて行く。

少女は砂糖たっぷりの珈琲に口を付けた。
非常にゆっくりとした動作で、少女は下を見る。

その視線の先には、色とりどりの花が咲いていた。
ある物は水色で、ある物は桃色で。
中には水玉模様や星柄の物まである。
少女はその一つ一つを見つめると、柔らかく微笑んだ。

　ポーン…ポーン…
背後で三時を告げる鐘が鳴る。
「授業、始まるよ」
マスターである老人が、少女に話しかけた。
「良いの。次はサボる」
少女は老人にやっと聞こえるくらいの声で呟く。
「だって」
それは、自分に向かって言っているかのよう。
「とっても素敵なんだもの」

老人は優しい眼で少女を見た。
「お嬢さん、貴方にも梅雨の季節が来たのかな？」
そっとハンカチを差し出す。
「そう、かも…ね」
少女の頬を、雨が滴り落ちた。



空は狂ったように泣き続け、少女は壊れたように雨を滑らせた。
老人は少女の隣で、虹を架ける時を待っていた。