幻覚は優しさを孕んでいない
そういうものなのだと、思っていた。 なのに、どうしてかふわふわと私の周りを回る彼はいつだって楽しそうで、 記憶と一切違わない笑顔を浮かべているのだから。 それが優しいということなのだと、知ったのはいつだったか。幻覚が、昭史が、教えてくれたのは。 「夏樹」 笑う。 「僕はね、特別優しい訳ではないんだよ」 これは当たり前なんだよ、僕が夏樹と仲良くしたいから夏樹と一緒にいるんだよ。 だからいつか、夏樹の中の足りないところが埋まっても、 それが僕のおかげだとしても、夏樹は何も思わなくて良いんだよ。 それでは不公平だろうと、そう返したような気がする。そうしたら彼はまた笑って、 「なら、その時は僕を夏樹の一番のともだちにしてよ」 馬鹿だな、と思った。今だから思えることだった。 「ずっと、お前は一番だった」 その名を知らなかっただけで、その名を付けられなかっただけで。 「お前はずっと、私の―――俺の、親友だ、あきふみ」
(だってね、夏樹。これは当たり前なことなんだよ、だからぼくは、ね、いつかわかってね)
しろくま http://nanos.jp/howaitokuma/
20150603