インマイワールド
「こんなとこにいた」 滑り台の下、世界の全てから隠れられるようなその場所に時田はやっぱり顔を出した。 抱えた膝を身を守るように引き寄せて、僕ははぁとため息を吐く。 勿論、聞こえるように、だ。 「何で来たの」 「何でって朝海がいなくなったりしたからでしょ」 「いなくなった所で何か問題ある?」 「ないけど」 取り繕わない所が時田の唯一の美点だ。 僕はそう思っていた。 「じゃあ来なくても良かったじゃん」 此処は時田と僕しか知らない。 時田さえ来なければ、僕は此処にひとりきりでいられた。 なのに時田はいつもいつもいとも簡単にそれを壊す。 僕が必死で作り上げた塀を、無遠慮な笑顔で踏みにじっていく。 「そうは言っても、朝海がいないと嫌だし」 目が合う。 くそ、と悪態を吐く。 この表情をすれば僕が折れるって時田は知ってる。 だからする。前に本人に言われた、朝海は単純でチョロいね。 うん、僕は時田を引っ叩いてもきっと罰は当たらない。 「ね、だからさ、帰ろーよ」 有無を言わさない手が差し伸べられる。 その手を掴む前に、跳ね除けてやろうか、そう思考する間もなく時田は僕を引き上げる。 最悪だ、最低だ、こいつ、ろくな死に方しない。 「あ、ごめん、傘一本しか持ってきてない」 滑り台の外に引き出されて、思い出したように時田が言う。 どうせこれも計算の内だ。 手の平で転がされる可哀想な僕、嗚呼神様、いるのならこの憐れな子羊を救って下さい。 「…何でそのチョイスなんだよ」 時田の手の中の傘を見つめる。 子供向けの傘だ、ひどく小さい。 白い猫みたいなキャラクターが描かれている。 見覚えはあるが名前までは思い出せない。 「にゃんまげ、覚えてない?」 「何となくしか覚えてない」 そっか、と時田は笑う。 何か隠している時の笑い方。 僕はこうやって暴くくせに時田は自分のテリトリーをずっと守っている。 気に食わない。 「にゃんまげだよ。日光江戸村の」 「へぇ」 いまいちピンと来ない。 「朝海が、くれたんだよ」 顔を上げる。 時田が傘を広げている。 二人分の頭がやっと入るくらい小さな傘。 ばちりと繋がった記憶。 大泣きする時田。 飛ばされた傘。 濁流に飲まれて、それから、それから。 「…思い出せないな」 「そう。それでも良いよ」 音を食べてしまいそうなそんな雨の中、 ひどくださいその傘は、時田が初めて僕に曝け出した時田の世界に思えた。 どうせ、気付いている。 やっぱり手の平の上からは逃げられない。 ああ、かっこわる。
即興小説トレーニング お題:かっこわるい雨 必須要素:にゃんまげ
20130309