いつかまた
僕と彼女の関係は持ちつ持たれつの友人。 別にそれだけで、それしかなかった。 「アタシさ」 唐突に彼女は呟く。 「もし付き合うなら十個くらい年上な人か、 一個下の可愛い子か、同い年の一番近くにいるやつにしようと決めてたの」 「ふぅん」 興味なく返す。 今、彼女は誰とも付き合っていない、 本人の言葉を信じるならば、彼女は未だ誰かと付き合ったことはないはずだ。 「安城さんは付き合ったうちに入るのかな」 「入るんじゃねーの」 ただ、“十個くらい年上な人”の安城さんて人と援助交際していた程度。 僕はそれを知っても特に何も思わなかったし、 それまでどおり“持ちつ持たれつの友人”をしていた。 どうせ安城さんも過去形なのだし。 僕は手の中で卒業証書を回した。 桜の咲いていない今日この日、卒業式は何の関係もなくついさっき終わった。 「結局小田原くんも断っちゃったし」 “一個下の可愛い子”は卒業式が終わるとすぐ彼女のところへ来て告白していった。 顔も頭も運動神経も申し分ない彼女の良く知る後輩だったのだし、 断る理由はないと思っていたのだけれど。 「あとは“同い年の一番近くにいるやつ”なんだけど」 彼女空を仰ぐ。 僕は何も言わなかった。 固く閉じた桜の蕾を意味もなく見つめる。 「ツッコミなし?」 「ツッコんだ方が良かった?」 彼女は目を細めると、 「ほんと、アンタってサイコー」 今までどおり笑った。 「アタシね」 僕と彼女以外誰もいない教室で、彼女は座っていた机から降りた。 パタパタとスカートを払って僕の方を向いて少し逡巡してから、 「―――やっぱ、なんでもないや」 そのまま教室を出ていく。 「僕はお前といれて楽しかったよ」 小さくなる後ろ姿に特に声も張らずに言ったそれは、きっと届いていない。 それから半年、安城という苗字から葉書が届いた。 真ん中にはくしゃくしゃの顔をした赤ん坊が乗っていた。 その鼻の形を、僕はよく知っていた。 僕と彼女の関係は持ちつ持たれつの友人。 別にそれだけで、それしかなかった。
20121208