確信犯
「何でこんなことを」 「気付いたら?」 「お前は気付いたら、で自殺未遂するのか」 私は呆れた顔をしてみる。 無論、彼女はそれを全く気にしない。 「だってそうなんですもん」 「そうなんですもん、って…」 彼女の顔は綺麗だ。 何も知らない子供のような、あどけない笑顔。 「この世界に絶望した、とか、そんな綺麗な理由、ないですよ」 世界への絶望は、綺麗な理由なのか? 「それに、私はこの世界から逃れられないこと、解ってますから」 私は思わず、彼女を抱き締めた。 白くて華奢な腕が、ためらいがちに、私の腰へ回される。 彼女は小さい。 「どうして、お前なんだろうね」 私は呟いた。 彼女は腕に力を込める。 「分かりません」 小さな、声だった。 彼女は質問の意味を、どうとったのだろう。 自殺未遂をするのが? 傷つくのが? 逃げられないのが? それとも、 私が選んだのが? そっと、彼女の左腕をとり、その真新しい傷に口付ける。 「もう、こんなことはするな」 彼女は痛みに顔をしかめてから、物言いた気に見上げてきた。 「私が居るだろう」 「ねぇ」 彼女は私と目を合わせて言葉を紡ぐ。 「貴方のそんな態度の所為で、私が世界から逃れられないの、解ってます?」 「そうだとしたら―――」 私は笑って、 「どうする?」 彼女はまた何か言いたそうにしたけれど、諦めたのか、私の胸に額を押し付けてきた。 「…確信犯、」 「なんとでも」 私は、お前なしでは、生きられないのだから。
20090203