泳いで渡ってミルキーウェイ!
りりりん、りりりん、電話がなる。 古びた黒電話のようなその音は、最新型の薄い携帯から流れて来ている。 うとうと、としていた頭を刺すようなその音。 寝惚けた視界でそれを掴む、青いボタンを押す。 「遅い」 脳髄を叩くように声を出した。 捻り出したそれは掠れて低く、怒りとは言い難い胸中を如実に表しているようで。 「ごめん」 「何かあったのかと思った」 「会議が長引いて、そのあと電車が整備で遅れてて、携帯の充電も切れちゃって」 「事故とかにあったのかと思った」 「ごめん。心配してくれてありがと」 「…許さない」 心地好い低音に心が凪いでいく。 「チョコレート大量摂取で死んでやるから」 「死ぬつもりなんかないくせに」 「じゃあ牛乳で」 「腹壊すからやめとけ」 そんな軽口の応酬がとても、愛おしい。 連絡手段も移動手段も、溢れかえっている便利なこの時代でも、 今すぐに腕の中に飛び込ませてくれる技術は未だない。 こうして電話で寂しさを紛らわせる毎日。 けれど、この距離が些細な幸せを明確にしてくれるのも事実。 無限にも感じるこの距離が、一飛びには出来ないこの距離が、 もっともっと君を大切なものにしていく。 「…すき、だよ」 「うん」 「すき」 「俺も、すき」 この距離を憎む程遠く感じるのは、この気持ちがちゃんとあるからだ。 「すき」 だから、繰り返す。 この気持ちをもっと育てられるように。 次に会う時に、自分だけが君に見せらせるものを、見せてあげられるように。
image song「遠恋」RADWIMPS #非公式RTしたフォロワーさんのイメージでSSを一本書く
イメージ:わんこさん
20130309