サタデーナイト・アルデンテ
言葉というのは非常に身近な力だ。 受信したメールを眺めながら私はそう思った。 返信がないことを心配するような文面。 五通目になるそれは、私が敢えて無視しているという可能性は考えていないのだろうか。 …否、考えてはいるのだろう。 敢えて振り払っているのだ。 正しく私からの愛を注がれているのだと、彼は信じていたいのだから。 私はそんな大層な人間ではないというのに。 唇が歪むのも仕方ないと思う。 これをある種の駆け引きだと言う人間もいるのだろう。 私と彼の間に横たわるのは紛れもなく恋愛感情なのだから。 しかし、私の放つこれら全てが、 そんな陳腐なものと一緒くたにされてしまうのには、少々異論を唱えたい。 私はこれによって、彼が私から離れていこうが、どうでも良いのだから。 傷付いて傷付いて、耐えられなくなって泣き叫ぶでも良し、私を憎むも良し、 勢いあまって殴りかかって来られようとも、正直私は気にならない。 私は私によってどんな形であれ、彼が、彼の心が歪むのが見たいだけなのだから。 想像するだけで、身体の芯がきゅ、と声をあげるのが分かった。 どくどくと心臓の音が煩い。 鏡なんてなくても分かる、私は今とろりとした眸をしているだろう。 私が彼に抱いているのは紛れもない恋愛感情なのだから、 付随する情欲があったとしてもなんら可笑しいことではない。 愛しているが故に私は彼の歪む様が見たいのだから。 怯えと闘いつつ崩壊する中で私だけを一心に見つめる彼が、歪んでいく様は非常に美しい。 ずくり、と疼く下腹部に、さらに融けていく私の思考。 ああ、だからやめられない。 歪んだ後、彼がどうなろうと私は知らない。 好きに壊れていけば良い。 でももしそれでも彼が私を選ぶなんて、戯言を抜かすのなら。 「その時は、その時、かな」 送信完了、その文字が冷たく光っていた。 即興小説トレーニング お題:官能的な暴力
20121228