桜舞う春はまた廻る
ひらり、ひらり、ひらりらり。 春がまた廻る。 桜の道を幾千と彷徨い、やっと探し当てた彼は、あまりにも冷たいところにいた。 幸せを願い、叶え、そうした結果が座敷牢だ。 人間とは愚かで哀しくて、それだから目が離せない。 「―――迎えに来ましたよ、ノブ」 やせ細った首が気だるそうに持ち上がり、変わることのない春色の瞳が私を映す。 「…もと、さま?」 「遅くなってしまい、申し訳ありませんでした」 朽ちた家屋の地下。 こんな陽の光も入らない場所で、どれだけ寂しい思いをさせただろう。 手を伸ばして封を切る。 軋みながら開いた扉の向こう、疲れきった表情していたその頭を撫でてやる。 「お前は人間が好きですか」 「いいえ」 「では嫌いですか」 「いいえ!いいえ!」 頭を抱えて首を振る。 「嫌うことなど出来ましょうか!」 こんなに愛おしい子らを。 どれだけ愚かでも、どれだけ呆れ果てても、この愛しさは色褪せない。 けれど、そうだとしても、愛は返って来るものではないのだ。 「別れて生きることに、納得は出来そうですか」 力なく縦に振られる首。 この冷たさの中、彼が何を考えていたのか想像するのは容易かった。 それでも悪鬼と化さずに蹲っていた、それが解えなのだとも思った。 変わらないものなどない。 移ろい、移ろい、そうして世界は廻るのだ。 「行きましょう、ノブ」 「はい、モト様」 ひらり、ひらり、ひらりらり。 また同じ色をした春が、廻ってくるように。
#非公式RTしたフォロワーさんのイメージでSSを一本書く イメージ:初さん
20130309