そこに在るもの
「ここには、何かありますか?」 幼い少女は訊ねました。 「何、か?」 少年は少女を見ました。 そして、口の中で、“何か”と繰り返します。 「そう、何か。 何でも良いのです。 何か、ありますか?」 少女は再度問います。 少年はまた少し考えて、繰り返して、首を振ってから、少女に笑いかけました。 「何も、ないよ」 「…そうですか」 少女は哀しそうに、そう呟きました。 「そう。 ここは、何もない空間なんだ。 だから」 ここに来ちゃいけないよ。 少年の言葉は、少女に届いてはいませんでした。 少女の姿は、いつのまにか消えていました。 「何もないのなら、貴方は何なのですか?」 別の場所で、少女は呟きます。 「貴方の心は、何処へ行ったのですか?」 少女は胸に手を当てました。  トクン 小さな鼓動が、手のひらを伝ってゆきました。
20080320