ツギハギフェアリーテイル
「…安全運転…」 赤信号できゅきゅっ!と止まった車の助手席で、ぼそり、今世紀最大の怨嗟を込めて呟いた。 自覚があるのかないのか、運転席からはにこにことした笑みが返って来る。 「ほら、オレ前世は馬に乗ってたから」 「馬も道路交通法に組み込まれてるだろ」 「いやオレん時は組み込まれてなかった」 「何時代だよ」 「ちゅうせい?」 「何で疑問系。貴族?」 「そうそう貴族」 信号が青に変わる。 アクセル、発進。 また景色が流れ始める。 「じゃあお前と一緒にはいられないな」 身分違いだ、と笑えば、運転席のそいつは少しばかり悩んだ顔をした。 そうしてすぐにぱあ、と顔を明るくしてこちらを見る。 見るな、前を向け、頼むから。 「大丈夫だ、オレ成り上がりの貴族だから」 「そうなのか」 「だから大丈夫だ」 「大丈夫か?」 首を傾げる。 納得していない顔にうーんとまた少し悩んだあと、また顔を輝かせた。 オレが貴族に成り上がれた理由なんだけどさ、と小声になる。 「悪い奴に騙されかけて、穴倉でランプゲットしたんだよ」 何処かで聞いたことのある話になってきたぞ、と片眉を吊上げた。 我ながら器用なものである。 「そのランプを三回擦ったら魔神が出てきてさ! 三つ願い事叶えてくれるっての。 これ使わないとかないじゃん? とりあえずその時母さんが病気だったから、 一つ目はこれからずっと母さんが元気でいますようにって願った」 「お前の母さん元気だもんな」 「うん、正直元気過ぎかなって思う」 持ち前のパワフルさでいろんなことに挑戦していく彼女を思い浮かべる。 「二つ目はさっきのやつ。 まぁ別に貴族になりたいって願った訳じゃないんだけどな。 飢えることのない生活がしたいって、本当に貧乏だったから。 そしたら魔神が奮発してくれて貴族に」 へぇ、と相槌。 「で、だ。此処からが本題なんだけど」 悪戯っ子のような笑み。 「願い事、使い切らなかったから、今世まで魔神が着いて来ちゃったんだよね」 「ほう」 あ、読めた。 そうは思ったけれど顔には出さないで促す。 「だから三つ目、 お前とずっと一緒にいられますように、って願おうと思うんだけど、どう?」 「…だから前見ろってんだろこのタコ」 目の端で色を変えた信号機に思わず悪態が衝いて出た。 きゅきゅっ!と止まる車。 後続車とかなくて良かった、しかし心臓が足りない。 ずさり、と衝撃のままシートに沈み込んで、 「ていうかアラジンは中国の話だぞ確か」 「え、マジ?」 お後がよろしいようで。
#非公式RTしたフォロワーさんのイメージでSSを一本書く イメージ:鳥吉さん
20130305