手紙の行方。
とある町での同窓会にて。 「よぉ」 久々に会う友人は、僕のことを覚えていてくれたようだ。 「お前、本出したんだろ?」 「あれ、PN言ってあったっけ」 言った覚えがなく、聞いてみると、 「最初は分かんなかったんだけど、読んでから気付いた。 あの名前、お前のアナグラムだろ」 「流石」 出した本は一冊。 PNは、本名のアナグラム。 「あの本ってさ」 友人が話し出そうとするのを、 「…後ででも良いか?」 僕は遮った。 目の端に映った人物を追いかける。 「―――…」 友人は黙り込む。 昔と変わらない、カラスの濡れ羽色の髪。 漆黒の瞳。 透き通るような肌。 僕が視線を釘付けにされていると、目隠しされた。 「何すんだよ」 「アイツばっか見るなよ」 友人の仕業だ。 「あの本も、アイツに言えなかったこと、書いたんだろ」 「………」 今度は僕が黙り込む。 「アイツに渡せなかった、あの手紙なんだろ?」 目隠しが外れる。 もうそこに、彼は居なかった。 「アイツ、結婚したんだよ」 友人は声を絞り出す。 「もう、お前を見てはくれないんだ」 僕は俯いた。 見て欲しい訳じゃなかった。 どうにかして、僕が彼を愛した証を、残しておきたかっただけ。 「それでも良いんだ」 僕は言う。 「僕は、彼が好きだった。 今でもその気持ちは変わってない。 だけど、これ以上先に進もうとは、思わないから。 良いんだ」 渡せなかった手紙は、教室のゴミ箱に棄てた。 本は、手紙を思い出しながら書いたもの。 僕の手元に、残っているものなどない。 あの本はフィクション。 それで構わない。 「俺は良くねぇよ…」 友人の呟きを、僕は聞いていなかった。 再び彼が視界に入ってきて、僕はそれを追いかけた。 「良くねぇんだよ…ッ」 友人の手の中で、くしゃりと潰れたもの。 それは、何だったか。
執筆日不明