宙返り、一回。
ぶーん、と呑気な声と一緒に揃えられた四本の指と、外側に開かれた親指。 飛行機、なのだろう。 見えないが。 自由気ままに雲を突っ切って、青空を切り裂いて、そうして進んでいく不格好なてのひらが、 「どーん」 「ぐえっ」 明るい声で僕の腹に着地した。 「…何するんだね」 「なんとなーく」 へらへらと笑って見せるその目をぎっと睨みつけて、生暖かい手を払いのける。 「暇なのかい」 「暇じゃないよ」 「暇じゃないのかい」 うん、と頷いてまた宙へと投げ出される飛行機。 何処にも行けそうのない可哀想な形をした、どうしても人間のてのひらにしかなれないもの。 「考えることがたくさんあるからね」 考えること、と繰り返す。 こいつの言うことなんていつだって、 空の青さは変わらないだとか、朝は変わらず来るけれども本当にそれは同じ朝なのだろうか、 とか馬を馬と判断する基準は何処だろう、とか。 答えの見つからない水溜りを足で蹴りあげて、そうしてはしゃぐように。 「どうして生きているんだろう?」 「哲学なら自分でやりたまえよ」 「そういう訳じゃあないのさ」 不敵な笑みだ、そう思った。 答えのない世界に、いつその足場が崩れるかも分からない世界にいるのに、 何が来たって怖くないと言うような顔をしてみせる。 其処まで思って、それは自分にこそ言えることなのだろうな、と半眼になった。 信じていた足元が崩れるようなことがあれば。 こんな凝り固まった頭でどうやって生き残れば良いのだろう。 澄んだ目がこちらを見つめていた。 だから考えるんだよ、と言われた。 こちらの思考などお見通しだと言いたげな目で、ひどく、腹が立つ。 なので。 「とうっ」 「ぐげっ」 ぶーん、と飛んでいた悲惨な飛行機に、同じような形にしたてのひらがぶつかる。 無様な悲鳴は上がったが、ぶつかったこちらだって痛いのだからおあいこだ。 「何すんですか残水(ごみ)先生」 「尊敬もしていないのに先生なんてつけるもんじゃないよ」 ひりひりとした指先の痛みが、妙に生きていることを実感させていた。
イメージSS 湯島さん
20140920