うらはらアマービリタ
「お前なんて大嫌いだ」 初めて真面に顔を合わせた日、そう言い切られたことを今でも良く覚えている。 母さん、好きな人が出来たの。 父を亡くし、一人きりで自分を育ててきた母がそう言ったのは、高校生の時だった。 母の頬はほんのりと桃色に染まっていて、まるで少女漫画の主人公のようだと思った。 母の恋は順調に進み、そうしていつの間にか再婚の文字が踊るようになった。 反対はしなかった。 別に嫌ではなかったし、母にも新しく恋愛をする権利があると思っていたから。 でも、再婚の話は相手方の連れ子が猛反発したらしく、一向に進まなかった。 連れ子とは知り合いで、というか高校の同級生で、話したことはなかったが、 特に嫌われている訳でもなかったし、親に猛反発するようにも見えなかった。 何が駄目なのだろう。 そう思ってある放課後訪ねて行って、そして、冒頭の台詞である。 嫌われる要素どころかそもそも関わりすらしていなかったのに、だ。 お互いに名前を知っている程度の存在、廊下ですれ違ってもきっと分からないだろうに。 どうして、大嫌いなんて言葉が出て来るのだろう。 首を傾げる。 「何故?」 「何故って」 「何かしらの理由があるんでしょう?」 きゅ、と噛み締められるその唇を不思議そうに眺めていた。 白く、白く。 血が出るんじゃないかと噛まれた唇。 その色も、忘れたことなど、ない。 「君は馬鹿だ」 振り返りもせずに言う。 「君のそれは、我が侭でしかないよ」 分かっている、と耳元で囁かれた。 同じ部屋で隙間をなくすようにくっついてくるそいつに、 何をするでもなくやりたいようにさせている。 あの時こいつがした大反対も甲斐なく、母とこいつの父は再婚した。 苗字の変わった自分をみて、こいつはひどく悲しそうな顔をしただけだった。 「馬鹿」 「うん」 分かっている、分かっているのだ。 それでもそうしない。 法くらい、世間に後ろ指差されるくらい、構わないのに。 お前とならば、何処までも行けるのに。 こいつはとても臆病だ。 全てを捨てても、だなんてどう足掻いたって言えやしない。 「逃げないの?」 「逃げないよ」 ぎゅう、と握られた手はひどく暖かい。 夢見るのは少女の仕事だ。 私はもう成長して、少女ではなくなってしまったことを良く分かっていた。 「そう」 静かに返す。 それだけで、すべて伝わると思った。
#非公式RTしたフォロワーさんのイメージでSSを一本書く イメージ:山川さん
20130305