はしご下の君
「あいつ、お前のこと好きなんじゃねぇの」 無愛想に言った君はそっぽを向きながらも、暗いところが怖い私を決して一人にはしない。 後ろにいるよ、大丈夫だよ、とゆっくりついてきてくれている。 「あんなに、心配そうにしている訳だし」 前を行く背中を見上げる。 目は、合わない。 「良かったじゃん」 その言葉は私の過去を知っているぞ、という暗黙の脅しだ。 あれだけ好きだった男に好かれて、良かったじゃん。 何故伝わらないんだろう、と思う。 言葉にしても、行動で示しても、応えてくれない君が良いのだと。 過去がどうであれ、今私が全身全霊で好きなのは、君なのだと。 応えもせず、かと言って突き放しもせず、 そんな今までどおりの距離を保ち続ける、曖昧で生殺しな君の。 後ろからずっとついてきてくれる、私を労るような不器用な君の優しさに、 全力で全身で、全霊で、惚れているんだってことが。 どうして。
20140110