不確定の居場所
誕生日に貰ったの。 そう言って彼女が見せて来たのは苗字の変わった免許証。 ちらりと隣の彼を見やれば小さく頷いていた。 「おめでとう」 思ったよりもその言葉はすうっと出て行って、 喉が絞まる気配もなくて涙の色も帯びていなかった。 しかし心臓が掴まれたみたいにどくどくと嫌な音を立てていて、それだけが気がかり。 誕生日に俺の苗字を、なんて何処の少女漫画だ、と思わなくもない。 だけれど、まぁ、 こうして成功してしまうところを見ると現実なんてそんなもの、と言うしかなくなってしまう。 あの場所は、私の場所じゃあなかったのか。 知らなかったと、声をあげることは簡単だ。 でもきっと、私はそれをしないのだ。 この先もきっと同じようなことが起こっても、それを裏切りと呼んで構わないのだとしても。 彼らに悪気はなく、私は悲劇のヒロインではない。 灼けつくような熱さが、私がそこにいた証明のような気がしていた。 何もかもいらないはずだったのに、奪われることには感じるものがあるなんて。 嘲笑。 欲しがらなかったのは私だ。 どうしてもその地位に確固たる自分を築き上げることが出来なかった。 それは怖かったのと同時に、私にそんな価値がないと分かっていたからだ。 それをどうして恨むことが出来ようか。 元々私の確固たる居場所など、何処にもないのだと、ただそれだけのことなのだから。
20131009