いつか明日が来るように
「あの病院にテロを仕掛けて来なさい」 うちのアホエロ学園長が私と彼を呼んで言ったのは、そんな訳の分からない言葉だった。 「はぁ?」 怒ったような声を出す私に、隣で彼がびくりと肩を震わせるのが分かった。 気弱なところは変わってないらしい。 本当はそんなに怒っていないのに、 彼にはそれがわかっているはずなのに、それでも怯えざるを得ないらしい。 よく分からない。 「どういうことだか、説明してくださいよ」 「そう急くな」 学園長の話をまとめると、こうだった。 看護師を父に持つ少年が一人、その病院には入院している。 そんなに難しい病気ではない、手術すれば治るものだ。 しかし、父親が病院の不正の告発を考えている所為で、 彼の生命が危なくなっている―――だから助けるために、 連れ出すために、病院にテロをしかけろ、と。 「そんなの、大人だけでやれば良くないの?」 子供な私たちを巻き込むな、そう言ってみる。 「それがそうもいかないのだよ、桐生は天才だからな」 その桐生、というのが黒幕なのか。 「その人、病院で一番えらいひとなの?」 「いいや?」 「じゃあ何でのさばっているの?」 「一番えらいひとは患者のことでいっぱいだからだ」 首を傾げつつも、なるほど、と頷いておいた。 隣で彼は分からない顔をしている。 抜けているところも直っていないらしい。 残念なことだ。 はぁ、と溜息を吐きながら私は、どうせこれを成し遂げてしまうのだろう、そう思った。 だって私も彼も、何かが脅かされる、その状況がとてもきらいなのだから。
20140110