水浸しの愛
君は私の前を行っていた。 手を伸ばせば届きそうな距離なのに、何故かそれは成し得なくて。 水音が響き渡ってもいいはずなのに、それもなくて。 ―――すきなの。 喉の奥が心地好いと駄々をこねる言葉を、無理矢理に引っ張り出して、空気に引き裂かせて。 どんどん遠ざかる君。 それでも私は君を必死に追っていた。 君への想いを必死に叫んでいた。 喉が潰れるかもしれない、そんなことも気にならなかった。 ただ、君にそれを届けたかった。 けれども、それは君に届かなくて―――否、君が、それに応えないことを選んだだけなのだ。 私にはそれが分かっていて、でも諦めることなど出来なくて。 ごぽ、り。 最期に分かっていたのは私の脚を捉えて離さない、ぐるぐる渦巻き波立つこの水たちのこと。 海とも言える量の水は、私を飲み込むほどのそれは、 私自身が溢れさせた涙だった、それだけだった。
20140110