たとえ世界を敵に回しても
パン、ととてつもない音がしたのは夜のことだった。 ずるずると脅されるままに連れて来られたのは山小屋のような木造の小さな家で、 私たちはそこに放り込まれた。 所謂犯人であろう男は銃を持っていて、 何の武装もしてない一般人の私たちの抵抗意志を削ぐには十分だった。 何人もの人間がぎゅうぎゅうに座らされ、これからどうなるかと怯えている。 そんな可哀想な人間の中に、彼はいた。 私は彼を知っていた。 町の外れにある大きなお屋敷で飼われている少年だ。 私は彼を哀れんでいる。 いつ見ても屋敷の主人に虐げられている少年を、これ以上なく哀れんでいた。 そして、彼を引き取りたいとも思っていた。 地毛なのか金色の髪は虐げられて尚輝きを失っていなかったし、 長く伸ばされた前髪で隠れているものの、その瞳も不思議な色をしていて興味を引いた。 つまるところ、彼は美しかったのだ。 私はその美しい少年を手元においておきたいと思っていた。 その彼が何故こんなところにいるのかは分からなかったが、 どうせお使いの類だろうと当たりをつける。 彼が屋敷の主人の命令なしにあの屋敷を出ることなどないのだから。 そして、恐らく此処でこうして捕まっていることも、彼にとっては非常に困る事態なのだろう。 はやく帰らないと、と私は彼の呟きを聞いた。 そして、やはりと言うべきか、彼は行動に出た。 「お前、何をしている!」 犯人の怒声。 「はやく帰らないと!」 彼の悲鳴。 「ご主人様が、ご主人様が怒ってる…ッ!」 悲痛なそれに誰もが耳を塞ぐ中、私だけは石のようにぎちりと固まってそれを眺めていた。 「お前の事情なんか知ったことか!」 そう叫んだ犯人は彼の耳を引っ張って、別の部屋へと入っていった。 ああ、と思う。 この先のことはどうせ予想と違わない胸糞悪いものになるのだろう。 犯人が見張っていない間に此処から脱出しろ、という考えもあるかもしれない。 けれど残念なことに外に出るには今がした犯人が入っていった部屋を通る他にないのだ。 一応あれでも考えているようである。 本当に残念だ。 はぁ、とため息を吐く。 もう一度閉められた扉を見やって、はぁ、と今度はわざとらしく盛大にため息を吐いた。 そうして彼が私たちの元に戻された時には、 ぼんやりとしてしまっていて正気を保っているのかすら怪しかった。 それでも尚、その薄い唇が小さく動いて、ご主人様、と紡ぐのだから、更に同情を誘う。 私は耐え切れずに彼を抱きしめた。 彼の身体のところどころに、 恐らく先ほどまでの名残であろう体液がへばりついているのも気にならなかった。 ただ私だけは彼の味方でいようと思った。 それが偽善や支配欲と言ったものよりも残酷な感情だと、知っていて。
20131009