「アノ」
やっとどうにかする気になったのか、困った様子でいずみが声を掛けた。
「君は…何者なノ?」



第二話
見るからに一般ピープルな、 しかし怪しいところ満載どころか怪しいところしかない空からの侵入者は、 もう一度二人に向き直ると、その口角をゆるりと緩めた。 「自己紹介が遅れてごめんね。僕の名前は   だよ」 奇妙な感覚だった。 涼水は首を傾げる。 いずみも隣で首こそ傾げはしないが、同じ感覚に見舞われたようだった。 まるで一瞬、聴覚を失ったような。 その様子に少女はあー…と不明瞭な言葉で呻くと、そっか、と一人頷く。 「名前は言えないんだね、やっぱ」 予想していたかのような口ぶり。 「…理由を、聞いてモ?」 「んー…世界の壁は越えがたい、ってとこかな」 せかいの、かべ? 「価値観が違いすぎるし、まぁ、しょうがないって言ったらしょうがないんだよね」 何を言っているのか訳が分からなく、涼水はもう一度首を傾げる。 世界の壁とは何のことなのだろう。 いずみがいつだか世界は複数存在すると言っていたし、 日常ではお目にかかれないであろう人々(人ではないのかもしれないが)と出会うことによって、 それもなんとなく納得出来てはいる。 けれど、彼らのうち一人として名前を告げられない者などいなかったような気がするのだが。 まぁ、偽名を使っている可能性はなきにしもあらずだが。 「えっと、僕は本来繋がるはずのない世界から来たんだ」 少女の前髪の向こうから蒼い瞳がうるりと滲む。 その瞳に、涼水は既視感を覚える。 ああ知っている、これを、これと同じものを見たことがある。 いつ? ずっと前、ずっとずっと前―――。 「僕の本体はね、」 「ほん、たい?」 きらきらと煌くいたずらっこのような光を。 きっと、いずみも知っている。 ああ、そうだ、これは。 「君たちの物語を書いている人、だから」 生まれ落ちた時のように。   
20140604