黎明堂の居間にその妙な客人を通して、お茶を淹れる。
そうして全員が一息吐いたところで、ねぇ、と声を上げたのはいずみだった。
「その本ハ、魔本?」
いずみが指差したのはYの手の中のノート。

何の変哲もなさそうな、コタヨキャムパスノート。



第四話
Yは頷く。 「いずみなら分かるかもって思ってたけど、ホントに分かるモンなんだね〜」 「しかモ、結構純度の高イ魔力の込められてルものだよネ、それ。 そんナものを一般人の君が持っていテ、どうしテ取り込まれないノ?」 とりこまれる、と涼水が繰り返す。 「取り込まれるってどういうこと?」 いずみはその質問に詰まった。 その間を逃さず、魔本てのはね、と喋り始めたのはYの方だった。 「魔力の容量を持った特殊な本に、 魔力を封印式とか使って…まぁ簡単に言うと、無理に閉じ込めてあるものなんだよね。 だから、結構不安定なものなの。 閉じ込められている魔力が多ければ多いほど、って感じに」 予め用意されていたというには、あまりに稚拙な説明だった。 しかしそういう方向に詳しくない涼水にとっては、 丁寧に説明されるよりもこんなふうにざっくり説明される方がありがたい。 ぼんやりとは分かる。 「それでねー、なんとか安定させようと肉体を欲しがるんだよ」 にこやかに言い放たれた言葉に固まる。 それはにこやかに言って良い内容なのだろうか。 空から降ってきた時点で一般人ではないことは分かっていたが、やはり一般人ではなかった。 いずみは彼女のことを一般人扱いするようだが、涼水にはどうにも一般人とは思えない。 だって、一般人はこんなことにこやかに言ったりしない。 そんな涼水の思考に気付いていないのか、はたまたただ単に触れなかっただけなのか。 Yはにこにこと続ける。 「でもねーこれ厳密に言うと魔本じゃないんだよね。 本体の作った所謂チートノートってだけで…それが無理のない形で存在するために、 魔力として変換されたようなものだし」 「…デモ、魔本には変わりないんデショ?」 「どうだろう。 君たちにはそう見えるってだけ…っていう方が近いかもしれないね」 なにそれ、と呟いたのは涼水だったが、いずみもきっと同じことを思っていた。 「どうして僕がこれを持てているかってことには…うーん、そうだな、 僕が持てるように作られたから、ってなっちゃうだろうし。 どう説明したら良いのかな」 「じゃア、どうしテ持てルようにしたノカ、でモ良いケド」 「そんなの、」 その口元に一瞬浮かび上がったものに、涼水は喉の辺りが詰まるような心地になった。 鮮やかなそれは、涼水にも憶えがある。 どうしようもない、自分のことをそう思う、自嘲。 「僕がこの世界で生きるには弱すぎるから、に決まってるでしょ」 その瞬間の繋がった感覚というものを、きっと涼水は一生忘れないだろう。   
20140607