ラスト・レター。



朝、居間へと出てくれば、 「あれ、いずみ。おはよう」 珍しく涼水よりも先にいずみがいた。 「どうしたの?何かあった?」 普段は一番奥の書斎に篭って何やらやっているいずみだ。 自主的に居間に出て来ることは少ない。 何かあったと思うのが普通だろう。 「手紙」 いずみは手に持っていた便箋を丁寧に封筒に戻すと、ぽい、と涼水に投げた。 「手紙?誰から?」 「この間の悪魔サン」 どき、と胸が鳴るのが聞こえる。 「よ、読んで良いの?」 「宛名連名だカラ」 確かに、封筒には二つの名前が書いてある。 ツクシイズミさま、スズミさま。 お世辞にも上手とは言えないその文字は、なんとなく彼女の字ではないのだろうなと思わせた。 椅子に座って便箋を取り出す。 すぅ、と息を吸うと、涼水は手紙に目を走らせた。 貴方がこの手紙を読む頃、私はもうこの世にいないのでしょう。 悲しむことはありません。 それが世界の掟なのです。 理不尽だと憤りたい心も、最初はありました。 しかし、今の私にはそんなこと些細な問題なのです。 子供は無事に生まれました。 悪魔の子というのは人間と違って母乳を必要としません。 それは幾つかある救いのうちの一つなのでしょう。 子供は母親のいない子になります。 あの日言ったように、私はそれだけは後悔しています。 私がこの子を愛してあげるべきだったし、愛してあげたかった。 けれど、世界に逆らう以上、全てを望むのは傲慢というものです。 こうして世界の禁忌に触れて尚、引き返すことをしない私に、これ以上は望めません。 でもきっと、父親が私の分までその子を愛してくれるに違いありません。 私の選んだ人間はそういう人だと信じています。 彼も約束してくれました。 賭けだった子供の性質ですが、恐らく人間にとても近いように生まれつきました。 成長スピードも人間と大差ないでしょう。 半分は悪魔の血ですので、やはり何処か他の子と違ったところは出て来るとは思いますが、 きっとこの子なら乗り越えてくれると信じています。 最後に、 涼水がはっと息を飲む。 最後に、子供の名前をお伝えしたいと思います。 可愛らしい女の子でした。 黒髪が印象的な、女の子でした。 名前は、   
20131103