伝わった、ぬくもりを。



涼水ははらはらと涙がこぼれていくのを感じていた。 胸が痛い訳じゃない。 悲しい訳でも、苦しい訳でも、辛い訳でもなければ寂しい訳でもない。 でも、ただ涙が止まらない。 名前は、スズミ、なんて、素敵ではありませんか? 「おめでとう、スズミ」 止まる気配を見せない涙を拭う。 いずみはいつの間にかいなくなっていた。 きっとまた書斎に行ったのだろう。 窓から空を見上げる。 きっと、きっと、何処か遠く、 それでも繋がっているに違いない、同じ空の下のその子に届くように。 「生まれてきてくれて、ありがとう」 「ん?」 ぽたり、という音に青年が振り返る。 「露か」 まだ不安定な、しかし確実に父親になりつつある表情で、 青年は生まれて間もない子供の額から、小さな雫を優しく拭きとった。   →
20131103